平成24年3月22日
出光佐三記念六甲台講堂

皆さん、博士学位の取得おめでとうございます。神戸大学の全構成員を代表して、お祝いを申し上げます。ご家族の皆様におかれましては、喜びもひとしおのことと想像しております。そして、ご指導に当られた指導教員の方々や職員の皆様には、多大なご尽力をなされたことと存じ、心から感謝を申し上げます。

今回、課程博士205名、論文博士15名の合計220名、内、海外からの留学生48名の方々が博士学位を取得されました。学位取得者数は毎年約300名に達し、内留学生が占める割合も20%程度となっております。毎年、このように多くの博士学位の授与者を輩出するとともに高い国際性を示すことができることは神戸大学の誉であり、誠に喜ばしいことと思っております。

さて、現在我が国においては、特に高度でグローバルな人材が社会?経済界から強く要望されており、文化や言語の異なる環境下で、コミュニケーション力や困難を乗り越えて目標を達成する力を有する人材の育成が大学の重要な使命の一つとなってきております。

すなわち、自ら主体的、能動的に変化を作り出せる革新力を有する人材が求められていると思います。

ご存知のとおり、博士の学位は創造性、新規性そして論理性などを記述した複数の学術論文や作品等を整理し、総合的にまとめられた学位論文を基本に評価された結果として、授与されるものであります。そのため、皆さんは自ら課題を発見し、課題の解決、あるいは実現のための手段?方法を独創的な発想を持って試行錯誤されてきたことと思います。

皆さんは、このような困難な課題に対し日夜研究活動に没頭され、長年のご努力?ご苦労があったかと思いますが、その甲斐があって、見事、学位審査に合格され、本日神戸大学の学位を授与されることとなりました。

さて、神戸大学は、開放的で国際性に富む固有の文化の下、「真摯?自由?共同」の精神を発揮し、世界最高水準の研究と人間性、創造性、国際性、専門性を培う教育を目指してたゆまない営為を重ねてまいりました。そして、「神戸大学ビジョン2015」で掲げる「卓越した独自の教育プログラムを通じて、高い見識とグローバルな視野を有する人間性豊かな指導的人材を育成し、世界トップクラスの教育研究機関」を目指しております。

神戸大学では、平成21年度から本学で学ぶ学生の国際性を推進する目的と教員の高い国際性を自ら会得させるための施策として「若手教員長期海外派遣制度」を制定し、4年間で60名の教員を半年から1年程度留学させることにしました。すでに帰国された方々の報告をお聞きしますと、研究の成果は勿論のこと、海外生活における異文化との触れ合いや人との交流など貴重な体験談について瞳を輝かせながら述べられておられました。さぞかし、皆様へのご指導などにも影響を与えていただいていることと思います。

その他の施策として、教育研究の国際展開を目的とし、大学?研究機関等との連携による教育研究を促進するために「EU総合学術センター」も設置しました。そして、アジア、ヨーロッパ各国に留学生の方々の同窓会を10か所設立し、グローバルネットワーク組織も充実してまいりました。

このように神戸大学は国際化への努力を積み重ねてきた結果、外国人留学生の受け入れと日本人留学生の派遣人数は年々増加し、留学生の人数は現在1200名に達し、また海外派遣者数も450名を越えるようになってきました。

一方、研究分野でも、総合大学としての神戸大学の異分野間の融合研究を推進するため、昨年ポートアイランドに設置した「統合研究拠点」には8つのプロジェクトが入居し、分子レベルから宇宙に至る広範囲な領域での研究活動を開始しております。西隣にある世界最速スーパーコンピュ-タ「京」とのプロジェクト研究に関する連携も計画が進んでおり、国際的な産学官の融合研究拠点の形成を目指しています。

このように皆さんは、神戸大学の国際性を重視した世界的な教育研究の恵まれた環境の中で貴重な経験を積み重ね研鑽されてこられました。

さて、昨年3月11日に発生した東日本大震災から1年の歳月が過ぎましたが、現時点においても未だ復旧?復興への道のりは厳しく、福島原子力発電所の惨状だけを考えましても、解決には程遠い状況にあります。さらに、大地震のメカニズムや津波への対策など防災?減災に対する科学技術の側面から判断しても緒に就いたばかりの状況であると思います。

我々の学術研究は、最終的に人類や社会への貢献に結びつくものでなければなりりません。大震災のような複雑で困難な課題に対しては、様々な学問分野の枠組み、あるいは基礎研究や応用研究などの研究ステージの違いなどの枠を超えた学際的で総合的な取り組みが不可欠であります。このような難題は、何も自然災害の例だけではなく、これから活躍される産業界や学業界などでの多様な活動の中でも、様々な形で皆様方の前に大きく立ちはだかるものと思います。

しかしながら、皆様は、先程申し上げました神戸大学の恵まれた環境下で博士の学位を取得され、多様な課題やリスクを克服できる基盤的な能力を身に着けられました。多くの課題にチャレンジすることは、神戸大学で博士号を取得された方々の役割であり、皆様は必ずや克服していただけるものと信じております。我々人類と自然との共生と調和を基本に据えた「明日の新たな世界」を切り開いていただけることを大いに期待しております。

最後になりますが、皆様の今後のますますのご活躍を祈念して、博士学位取得のお祝いの言葉といたします。

平成24年3月22日
神戸大学長 福田 秀樹