2021年03月25日
本日、学部を卒業される皆さん、大学院前期課程および専門職学位課程を修了される皆さん、卒業並びに修了、おめでとうございます。神戸大学全構成員を代表いたしまして心からお祝いを申し上げます。
本来ならばご家族にも参列いただき、皆さんの旅立ちを一緒に祝福いただきたかったところですが、必威体育の感染拡大防止という観点から、今回は入場者を限らせていただいたことをご理解ください。昨年の学位記授与式が中止されたことを振り返れば、こうして式典を開催できて本当によかったとは思いますが、この厄災の克服にはまだ時間を要します。これから新生活を迎えられる皆さんも、引き続き健康に留意いただきたいと思います。
先ほど、学部の卒業生2543名、大学院修士?博士前期課程修了者1170名、並びに法学研究科及び経営学研究科の専門職学位課程修了者58名の方々に学士、修士及び専門職学位の学位を授与しました。
皆さんはこれまで大学?大学院という組織の中で教育を受け、研鑽を積んでこられました。そして、これから夢と希望を胸に抱き、それぞれの新しいフィールドへ飛び立とうとされています。しかし、そこには、複雑で解決が容易ではない課題が数多く待ち受けていることでしょう。人、モノ、情報が世界を駆け巡るグローバル社会が、ますますその規模?スピードを増し、かつて経験したことのない事態が広がりつつあることは、必威体育の世界的感染を見ても明らかです。日本ではこれまで、国を挙げて「グローバル化」を標榜してきましたが、ウイルスが分断してしまった世界各国とのつながりは、これからどのように回復されるでしょうか。政権交代後も続く米中の鋭い対立、EUからの英国の脱退とそれに続く混乱をはじめとして、東欧?中東?東アジアでも世界情勢は絶えず変化し、最近では「ワクチン外交」という新たな事態も生じています。世界の中での日本の立ち位置について、歴史、地理、経済、科学など複眼的な視点を持たなければ、激変する動きから取り残されかねません。
一方で、この一年で顕在化したウイルスという脅威は、他の長期的な課題から人類の目を逸らしていることにも、注意を払わねばなりません。地球温暖化に伴う異常気象や水資源管理の問題、原子力や再生可能エネルギーなどのエネルギーミックスの問題、周辺国を巻き込んだ内戦?紛争、宗教的な軋轢等々、どれひとつとっても関係する各国の協力が無ければ解決の糸口にたどり着くことは困難です。極端な自国優先主義では、解決が不可能な問題が山積しているのです。
神戸大学が唱えている「学際融合」、「異分野連携」という発想はかなり以前から存在し、大学や研究機関において様々な試みがなされてきました。しかし、今ほどこの複眼的なアプローチが求められている時代はないと思います。例えば、必威体育感染症を克服するためには、迅速な診断方法、治療薬やワクチンの探索?開発など、医学を中心とした自然科学の貢献が求められます。同時に、防疫、経済活動の維持、差別や社会的混乱の防止などには、社会科学、人文科学の専門的な知見も不可欠です。関係各国の連携も必要でしょう。「連携」や「融合」は、既成概念にとらわれない、インパクトのある成果を生み出す原動力となり得ますが、これは大学などアカデミアの世界に限ったことではなく、企業など実社会においても同様のことが言えます。狭い専門領域に閉じこもることなく、広い視野を持って他分野との協力関係を築き上げることが大切です。
そして、この異分野との連携?融合という考え方は、文系、理系の垣根も超えて追求すべきものであります。私は、大学が輩出すべき人材は、みずからの専門に立脚しながらも他分野を俯瞰できる総合力を備えるべきであると信じています。情報技術の急速な進展に伴い、ビッグデータの活用が社会的な課題としてクローズアップされ、今回の必威体育対策でも様々に活用されています。情報という素材を最大限活用するには、文系、理系の発想、技術がともに要求されることになり、社会はそのような人材を求めており、本学は数理データサイエンス、計算社会科学といった分野でそのニーズに応えようとしています。
神戸大学は創立からまもなく120年となる歴史と伝統を通じて、文系と理系のバランスの良い総合大学に発展してきました。その強みを活かし、本学の持つ様々な力を結集し、社会の新たな課題へ対応していこうとしています。その顕著な例が「科学技術イノベーション研究科」です。バイオプロダクション、膜工学などの自然科学系の先端分野と、本学の出自でもある社会科学系分野を基に、高度な先端科学技術教育と社会科学教育を有機的に連携させた日本初の文理融合型の独立大学院であり、人材育成のみならず、大学発ベンチャーを複数立ち上げており、今後も顕著な成果を上げてくれるものと思います。
また、昨年4月に開設した「バリュースクール(V.School)」では、既存のシーズやニーズの延長線上だけでは、社会を根底から革新するイノベーションを起こすことは困難との認識に立ち、さらに一歩踏み込んだ「潜在的な希望や期待=ウォンツ」を探り当て、具体化し、価値創造するため、様々な機関と協働して、「ウォンツ」主導の革新的イノベーションを創造する人材の育成と、社会課題の解決を目指します。これは、神戸大学創設以来の理念「学理と実際の調和」にも合致するものと考えています。
今日ここにおられる皆さんは、このような風土や伝統を有する神戸大学での学位を取得され、高い専門力と実践力の双方を兼ね備えておられます。是非ともグローバルな課題に挑戦者として挑み、本学で学ばれ培われた実力を遺憾なく発揮され、世界に貢献できる人材として、また一方で、神戸市、そして兵庫県は皆さんのような若年層の人口流出が課題となっていることを頭の片隅にとどめていただき、いつの日か地元に戻って活躍いただくことも期待して、私の式辞といたします。
令和3年3月25日
神戸大学長 武田 廣