桜の花が春爛漫に咲き誇るなか、今日、神戸大学に入学される皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。また、保護者の皆様、ならびに、ご家族の皆様にも、心よりお祝い申し上げます。神戸大学長として、全構成員とともに、皆様をお迎えすることができ、大変嬉しく思っております。
今年は、年初めに能登半島での地震災害が発生し、受験生を含め多くの人々の生活基盤に大きな影響を与えました。亡くなられた方へのご冥福と一日も早い能登の復興を願っています。一方で、数年にわたり猛威を振るってきた必威体育感染はようやく落ち着きを見せていますが、皆さんは、そのなかでこれまで苦難と緊張感を伴いながら受験勉強に励まれ、厳しい入学試験を乗り越え、神戸大学への入学の日を、迎えられたことに改めて心より敬意を表します。
今日の入学式は、マスク着用は個人の判断に任せ、皆さんの輝かしい希望に満ち溢れた笑顔を拝見しながら、入学式を挙行し、ご父兄の方々と共にお祝いできることを、学長として大変うれしく思っている次第です。
この春、神戸大学には、学部に2,600名、大学院博士課程の前期課程に1,225名、後期課程に335名、法科大学院と経営学、専門職、学位課程に159名、編入?転入学生として114名、そのうち海外からも274名の皆さんが入学され、計4,433名の学生さんを迎えることとなりました。
さて、この度、皆さんが入学された神戸大学は、自然に恵まれた六甲の山並みと光り輝く瀬戸内の海に囲まれ、異国情緒溢れる港町神戸に位置し、1902年に創立した歴史と伝統のある、素晴らしい総合研究大学です。開学以来、「学理と実際の調和」という理念を掲げ、「真摯?自由?協同」の精神のもと、普遍的価値を有する「知」を創造するとともに、人間性豊かな指導的人材を養成することを、使命としてきました。
これまでに、本学における、多くの卒業生や教育研究者が、教育、研究、社会貢献などの分野で活躍され、ノーベル生理学?医学賞をはじめ、数多くの輝かしい業績を残してこられています。また、世界に貢献する多くの優秀な次世代人材が育ち、教育?研究機関、政治経済界、法曹界、医療界など様々な領域において要職として社会に多大なる貢献をされてきており、本学にとって大きな誇りであります。
本日は、神戸大学工学部の卒業生で、元アップルコンピュータ株式会社社長 兼 米国アップルバイスプレジデント、現在は、株式会社コミュニカ代表取締役でいらっしゃいます山元 賢治(やまもとけんじ)さまにお越しいただき、『Glorious Discontent』という題目で、ご講演いただけることになっておりますので、楽しみにしてお待ちください。
神戸大学は、10の学部と15の大学院、法学と経営学の二つの専門職大学院、経済経営研究所、医学部附属病院、さらに多くの教育研究に関わるセンター群と、複数の図書館で、構成されています。
キャンパスは、4つの地区からなり、六甲台地区に、人文?人間科学系、社会科学系、および自然科学系の各部局、楠地区に医学研究科、医学部、および附属病院、名谷地区に保健学研究科、そして深江地区には、日本でも数少ない海を科学する海事科学研究科があります。学術領域として、人文?人間科学系、社会科学系、自然科学系、および生命?医学系の4つがあり、それぞれの領域が優れた特色と強みを持ち、お互いに密な連携をして、新規性の高い独創的、学際的な教育?研究を行ってきており、国際的にも高い評価を得ています。皆さんが、今、おられるポートアイランドの神戸医療産業都市地区には、近年、統合研究拠点、神戸バイオテクノロジー研究?人材育成センター、国際がん医療?研究センター、バイオリソースセンター、統合型医療機器研究開発?創出拠点、神戸大学発のベンチャー企業、そして新たにバイオものづくり共創拠点、メドテックイノベーションセンターが建設中であり、神戸大学の先端的研究開発拠点が着々と集積しており、『デジタルバイオ&ライフサイエンス?リサーチパーク』として、神戸大学の新しい科学技術革新研究基盤を形成してきています。そして、世界に誇れる最先端技術の研究?開発だけでなく、兵庫県、神戸市をはじめとする地元自治体、企業との産官学連携により新しい価値を創造し、社会実装に取り組み、新たな産業創出に向け神戸大学発のスタートアップの育成にも努め、社会に貢献し、地域に根差し世界に誇れる全学的なグローバルイノベーションキャンパスの構築を目指しています。また、スーパーコンピュータ「富岳」、Spring8、ニュースバルなどの先端研究機関、さらには、国内外の多くの大学、医療機関との連携を密にして俯瞰的、かつ長期的な視野に立って基礎科学と応用科学に関する研究開発を推進し、デジタル未来社会を先導し、豊かで幸せな社会の発展に貢献して参ります。
一方、大学教育においては、コロナ感染を契機に、教育のデジタル化が急速に進んできました。神戸大学では、デジタル化のメリットを活かし、皆さんのニーズに合うような質の高いデジタル教育に向けての整備を進め、メタバースも視野に入れ、時空間の制限のない理想的なハイブリッドキャンパスを目指して、斬新で魅力的な学習?実習機会を提供できるよう取り組んでいます。昨今、生成AIが社会に急速に広がり、行政、産業、医療などあらゆる分野の基盤や制度、そして大学の教育にも影響を与えてきています。そして、ディープフェイクのような社会的な脅威も生み出しています。生成AI開発も、人類を進歩させようという崇高な理念のもとで開発されていると思いますが、大学として継続的に生成AIのメリット、デメリットをしっかりと評価し、教育?研究において生成AIと共生していかねばなりません。そのためには、その倫理性、透明性、セキュリティ、個人情報管理などの法的、社会的課題を踏まえて、大学における生成AIの役割、機能を検討し、ステークホルダーからの信頼性を高めたうえで、教育?研究における活用方法をしっかりと考え、未来に向けてその質と活用方法を高めていきたいと考えています。今後、生成AIが進化し、社会がどのように変化しようとも、我々は、AIの有用性をしっかりと見極める一方で、人間の頭脳からしか生まれない未知への気高い創造力、思考力、的確な判断力を磨き、人間であることの価値を引き出す潜在的な力を涵養しつづけることが重要であると思っています。
また、超情報化社会の現代においては、あらゆる分野で情報科学?分析科学に基づく知識やデジタル技術を活かし、様々な領域を繋いでデータに基づき新しい価値を創造し、未知の世界をデザインして、課題解決に挑戦する能力を養うことが、非常に重要になってきています。そのために神戸大学では、基礎教養としてのデータサイエンス?AI教育を重視するとともに、価値創造教育、アントレプレナーシップ教育体制を充実させ、若い皆さんの自由で独創的な発想を引き出し、それを具現化し、社会で挑戦していく創造?実践力を早くから涵養し、学生のうちからチャンスがあれば自ら会社を起業することにも支援してきています。さらに、文系理系を問わず、その枠を超え、科学、技術、人文?社会科学のネットワークを形成して、STEAM、すなわち、科学、技術、工学、芸術、数学、5つの領域の横断的教育を推進し、より一層、総合的、複合的な思考力、創造力を養うための異分野共創型教育体制を構築し、それぞれの専門領域において多様性を持ち、社会に貢献できる優秀な人材の育成に取り組んでいます。大学における教育の質は、未来を映す鏡であり、大学として教育改革をさらに推進し、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識を高め、教育の多様性と質の向上に取り組んで参ります。
皆さんは、これから大学において、自らが選んだ自己の専門分野の学びを深め、自己研鑽に励まれることと思います。しかしながら、決して自分の専門領域だけにこだわらず、多岐にわたる先端研究や教育に触れるとともにグローバルな機会を増やし、世界的な広い視野と幅広い知識を身につけ、物事を俯瞰して自分の研究を極め、傑出した新しい技術や価値を創造し、国際競争と共生が進んでいくボーダレスな未来社会に貢献できるよう成長して頂きたいと思います。様々な領域の学びは、いつかどこかで必ず繋がり、さらに新しい独創的な発想を生み出していく力になると思います。また、できる限り、国内外の多様な人と交流し、グローバルな環境に身を置き、出会いを大切にして、自分とは異なる価値観や文化を持った、様々な人の考えや行動を受け入れ、コミュニケーション能力や協調性、世界的な視野での課題解決能力をしっかりと養い、自らの歩む道をじっくりと見極めていってほしいと思います。その過程でおそらく経験する苦境、逆境、失敗、挫折という状況を、決して単にネガティブなものとして判断するのではなく、むしろ自分にとって「大切な機会」と前向きにとらえ、回り道、寄り道をしてもそれを自分の長い人生に生かし、目標に向かってひたすらに挑戦し、情熱と信念をもって乗り越えやり抜いていくタフなチャレンジャーになってください。多くの人との出会い、様々な出来事は、きっと皆さんの力強い、そして素晴らしい人生を作っていくと思います。
一昨年、120周年を迎えた神戸大学には、皆さんを応援する全学的な同窓会組織としての校友会があります。校友会は、在校生、教職員、卒業生、保護者の方々などのステークホルダーが、それぞれの領域の垣根を越えて交流し結束を高め、One Kobe Familyとして、生涯にわたり皆さんの成長と神戸大学の発展を相互に支援して参ります。今日から皆さんは、校友会の一員です。皆さん、そして、これまでの多くの卒業生を含めたすべてのステークホルダーが、強い愛校心と誇りをもって結束することが、神戸大学の発展にとって大きな力となることを、どうか心にとめておいてください。
今、神戸では、街の再開発が始まっており、2030年には神戸空港も国際化され、魅力あふれる国際都市神戸、大学都市神戸として、大きく発展してきています。皆さん、一人一人が、この大学都市神戸の主役であり、この恵まれた立地を背景に素晴らしい教育?研究環境を備えた、そして発見と感動と創造に満ち溢れたキャンパスで、大きな志をもって後悔のない学生生活を、楽しんでください。
神戸大学は、いつも愛情と優しさをもって、君に寄り添い、君とともに未来を創ります。
最後に学長として、皆さんが健康に十分留意され、何事においても神戸大学生としての気高い品格と誇り、そして成人としての高潔な倫理観と道徳観をもって行動し、これからの学生生活が皆さんを真に輝かせるものになることを祈念し、私のお祝いの式辞とさせていただきます。
令和6年4月4日 神戸大学長 藤澤 正人