2025年01月06日
皆様、明けましておめでとうございます。
皆様方におかれましては穏やかな良き新年をお迎えになられたことと存じます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
今年は、阪神淡路大震災以来30年目となりますが、いまだ各地で地震、豪雨など自然災害が相次ぎ、改めて日頃からの防災安全対策の重要性を再認識し、大学としてもしっかりと取り組んでいかねばならないと思っています。また、ウクライナ、ガザ地区での紛争、世界的な政局不安定のなか、我々にとって平和で幸せな一年であることを願っています。
私にとりましては、学長1期目の4年目が終わり、2期目の年を迎えます。昨年の学長選挙におきましては、多くの教職員の皆様にご支持頂きましたことに改めてこの場を借りて心より感謝申し上げます。心新たにして身を引き締めて大学の発展のために頑張って参りたいと思っています。
また、今年は、令和4年4月から始まった第4期中期目標?中期計画期間、4年目の年となり、令和7年度末には中間評価を迎える重要な年となっています。第4期KPIの達成度評価は、この中間評価でほぼ固まることとなりますが、第5期を運営する予算に大きく影響しますので大学の継続的発展のため今年も引き続きKPIの達成に皆さんのご協力をよろしくお願いします。
さて、大学を取り巻く環境は厳しさを増し、少子高齢化、18歳人口の減少など人口ピラミッドが大きく変化するとともに、グローバル化、AI?デジタル化により社会?産業構造の変革が起こっています。大学においては、様々な課題が山積しており、着実に、確実に対応?解決していかねばなりません。研究力の低下、優秀な研究人材の獲得における国際競争、大学運営に向けての財源の確保、とくに運営費交付金の基幹経費の減額を補う競争的資金、外部資金の確保、さらに人件費の増加、物価の高騰、働き方改革、大学病院経営における課題など枚挙に暇がありません。
この4年間、KU VISION 2030 知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点を掲げ教育研究の活性化に取り組んでまいりましたが、今後も社会における様々な情報、時代の流れをしっかり掴み、従来の研究教育の枠組みを超えて、人文?社会科学と自然科学?生命科学の共創?協働により、社会から求められる不断の改革が重要です。時代の流れに即した教育研究体制の改革を進め、学内の潜在的な卓越したすべての領域の研究教育資源を効率的に活用し、地域社会を含めた異分野で、共に創る、有機的な共創研究教育基盤の強化により、新規性、独創性のある、そして傑出した研究教育事業を創出?推進し、知の創造と人材育成に努め社会に貢献するとともに継続的な強い自律的経営基盤を作って参ります。
研究においては、基礎科学と応用科学を両輪とした強い国際競争力を持った先端的研究基盤の強化が最も重要です。この数年間でバイオものづくり、膜工学、医工学、健康長寿、社会システムイノベーション研究拠点を中心としたデジタルバイオ?ライフサイエンスリサーチパーク(DBLR)が大学成長のエンジンとして、着実に発展してきており、それを基盤として国立大学改革?研究基盤強化推進補助金による学内の経営改革促進事業(文部科学省)を令和4年度から進めています。また、国際卓越研究大学と両輪となっている国の大型補助金事業である『地域中核?特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)』のもと地域中核?特色ある研究大学として、バイオものづくり研究とグローバル卓越人材の育成を強化して、デジタルバイオ?ライフサイエンスリサーチパークにおける先端研究をさらに発展させ、全学に横展開し、10年後には大学として総事業費1000億(令和5年、879億)を超えるグローバル?イノベーションキャンパスを目指しています。すでに、バイオものづくり共創研究拠点の研究棟が神戸大学統合研究拠点の北側に建設中です。また、昨年、膜工学領域で経済産業省『地域の中核大学等のインキュベーション?産学融合拠点整備事業』補助金と産官学連携により、産学連携本部棟の北側にバイオメディカルメンブレン研究棟が竣工し、新たな産官学連携による研究開発を加速させています。医工学領域では内閣府『地方大学?地域産業創生交付金事業(展開枠)』からの補助金で国際がん医療?研究センターに隣接したメドテックイノベーションセンターが昨年竣工し、医工学領域における先端医療機器の研究開発が進んでいます。これら研究施設をさらに充実させるとともに国内外から優秀な人材を結集させ、社会システムイノベーション研究拠点とも連携し、国際的な先端研究のさらなる活性化とイノベーション創出を進め、持続的なエコシステムを築いて参ります。また、これらに加えて、名谷地区には、企業との産官学連携により健康長寿研究拠点としての新たな教育研究棟の建設が始まっています。今後さらに、新たな成長基盤として水素?未来エネルギー、光科学、半導体開発拠点など本学として特色ある研究開発拠点を展開していきたいと思っています。また、産官学連携体制など全学的な共同研究基盤機能を拡充?強化するとともに、地域産業活性化に向けてスタートアップの育成を加速するために設立したGAPファンドや神戸大学1号ファンド(KUC)に続き、2号ファンドの設立に取り組み、知の価値化と社会実装を加速します。
教育活動、人材育成においても、大学としてこれから取り組むべき課題は山積みです。とくに、グローバル教育の充実は、喫緊の課題です。教育未来創造会議「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ<J-MIRAI>」における提言では、2033年までに派遣50万人(高校生を除くと38万人)、受け入れ40万人、外国人留学生の国内就職率60%を目標にしています。グローバル共創教育センターの設置をはじめ学内グローバル教育体制の改革、国際活動の加速に向けて新たな助成金の獲得、基金の活用、海外同窓会との連携の強化などを念頭に、学生の海外派遣支援、留学生の受け入れ促進、さらにはグローバルなキャリアパスの充実によって地域における多文化共生社会の構築に向けて取り組んで参りたいと思います。
学部教育カリキュラムにおいては、取り組んでいる共通教育、語学教育改革を引き続き進めていく予定です。各学部の専門教育を念頭に共通教育、語学教育のあり方を議論するとともに、教養部解体時に合意した全学的な協力の下で共通教育を行うという方針に立ち返り改革に取り組んで参ります。
今後、18歳人口が急速に減少する中で、多様性のある学部入試改革により優秀な人材の確保に努めるとともに、研究大学として学部?大学院定員の適正化とともに大学院教育の強化?改革は必須であると思います。大学の研究力を高めるために優秀な博士人材の育成は、非常に重要であり、入試改革、カリキュラム改革、経済的支援、キャリア支援など、様々な取り組みが必要です。経済的支援として次世代研究者挑戦的研究プログラムSPRINGや次世代AI人材育成プログラムBOOSTをすでに施行していますが、大学の基金からも追加支援をしていきたいと思います。また、修士課程から博士課程に進学する学生に修士からの経済的支援や早期学位取得制度を拡充し、博士課程への進学を促し優秀な博士人材の育成を強化して参ります。さらに、みらい開拓人材育成センターを中心に高大接続も含めた、神戸大学として特色のある一貫した卓越教育プログラムによる博士人材育成制度、幅広い学びができる多様性のある異分野共創教育を充実させ、様々な局面において柔軟性のある専門的な研究能力、課題解決能力を涵養して参ります。今後、さらに、時代を見据え社会に求められる優秀な実践的人材を育成し、社会に貢献できる研究大学へと進化するために学部?大学院組織改革、新教育領域の創出は必須と考えており、積極的に改革を進めて参ります。一昨年4月から始まった医学工学領域の共創研究教育のための医療創成工学専攻、さらに今春には、医療創成工学科、高度情報専門人材育成に向けたシステム情報学部が開設されます。『大学?高専機能強化支援事業』ハイレベル枠、補助金(文部科学省)により、システム情報学研究科の機能強化を進めるとともに情報価値創造教育棟が令和8年に向けて建設中です。今後も様々な部局で、学生に求められる、社会に評価される教育研究組織改革を大学として推進?支援して参ります。
さらに、博士課程修了後において次世代を支える優秀な若手研究者、若手教員が、研究に専念できるような環境を引き続き整えていきたいと思います。現在、開始している若手の研究者の雇用支援制度や優秀な若手教員が輝く卓越教員制度を継続して参ります。とくに、ダイバーシティ推進の観点から女性の教員雇用や昇進支援を加速し、全学における若手や女性の研究者の活躍を支援したいと思います。また、大学の知の還元に向けてリカレント教育事業もリカレント教育推進室を中心に充実してきており、今後も大学の重要な社会貢献事業として支援し推進して参ります。
大学の運営支援体制においては、経営戦略に役立つIR体制の強化、教育?研究?業務におけるDXの推進、教育研究経営支援人材の育成、広報活動に全力で取り組みます。とくに、教育?研究?産官学連携を支える優秀な支援人材の確保は重要であり、UEA、URAなど、専門的人材の育成体制とキャリアアップの整備、拡充に取り組み、教育研究の活性化に努めます。また、研究推進、産官学連携を改革し、機能を一体化し連携を強化した支援組織にしたいと思います。さらに、政策研究支援部、事務組織、技術職員においては、人員の補強、部署間連携の強化、中長期の視点に基づいた人と環境づくりを第一に考え、個々の能力を最大限に引き出せる人事戦略を進めます。頑張る人の専門性とモチベーションを高める組織にしたいと思います。また、外部から多様な卓越専門人材を招聘し、競争的環境の中で活力に富み個性豊かな魅力ある大学をつくり、戦略的、長期的に財の循環を拡大する仕組みを強化し、安定した経営を確立して自律的に発展し、社会を変革し貢献できる大学を目指して参ります。
大学の財務状況は、年々厳しくなってきています。今年は人事院勧告によるさらなる人件費の増加、物価上昇、附属病院の経営不振など、苦難の年になるかもしれませんが、様々な長期計画に基づく経営改革をしっかりと進め、難局を乗り越えていきたいと思います。今後も、大学への運営費交付金の非競争的な基盤的予算配分が、増えることは難しいと思います。したがって、競争的な資金である科学研究費、共同研究費、助成金、寄附金などの外部資金をしっかり獲得し安定的な成長基盤を築いていくことが、これからの大学運営における継続的、かつ重要な課題であることは間違いありません。これらが増えなければ大学の全体予算は減っていく一方です。国からではなく自己資金で賄っている教育研究事業、研究教育基盤や図書館の充実、施設設備の改修、大学の運営管理事業などをしっかりと進めるためには外部資金獲得による間接経費の確保が必須です。今や、この間接経費こそが、大学を支える財の循環の源泉となっています。したがって、構成員、それぞれが大学改革を意識し、一丸になって共創と協働を進め、立ち止まることなく成長し続けるという精神が大学の発展にはますます重要となっています。低迷していた神戸大学の外部資金は、令和2年度末には135億でしたが、令和3年より皆さんのご尽力により順調に増加しており、令和6年12月末で約190億まで伸びてきています。この状況が続けば第4期中に200億達成を目指せる状況になっており、様々な全学的取り組みや部局、個人へのインセンテイブ配分に向けて財を循環させていくことができると思っています。神戸大学には、まだまだ活かされていない教育研究力における潜在的ポテンシャルがあると思いますので、令和6年度の国の補正予算、7年度の概算要求予算獲得に向けて、全学、部局一丸となって叡智を結集し予算確保に取り組んでいきたいと思います。自分の研究に加え大学の全体の教育研究を活性化するために、ひとりひとりが力を合わせてこれら国からの大型補助金等を獲得し、大学の発展に貢献していくことが大切です。
昨年末に通達のあった令和7年度の国からの予算配分についてもお伝えしておきます。令和7年度、国の運営費交付金の総額は10,784億円となり、残念ながら期待していた増額はなく昨年と同額でした。本学の運営費交付金の基幹経費分は、例年通り、ミッション実現加速化係数分である1.6%分、約2.37億円が削減され、基幹運営交付金は168.16億円となっています。これ以外に競争的交付金としての共通指標に基づく配分額は、皆さんのおかげで令和7年度は令和6年度から1.15億増の1.43億円となりました。ただし、学士、修士、博士課程の就職?進学状況や研究業績における評価が7大学内(神戸大学、北大、東京農工大、千葉大、岡山大、広島大、金沢大)において低迷しており、年々大学間競争が厳しくなるなかキャリアパス、科研費等の獲得、論文業績など研究面においてより一層努力し、しっかりと確保していかなければなりません。また、同じく事項指定の競争的配分として申請していた教育研究組織改革(医工融合型教育、みらい開拓人材育成システム、AIスマート空調、先端バイオ、カーボンニュートラル、DX推進拠点)、共通政策課題分(ICT基盤、栄養衛生管理システム)などでは3.6億円増加しました。また、補正予算により基盤的設備分として液体水素供給システム、散乱透視イメージングシステムに3.4億円の予算配分がありました。
最後に、今後も構成員の皆さんとKU VISION 2030を共有し、学問の府としての自由な教育研究環境をしっかり確保するとともに基礎?応用科学研究における様々な大学の潜在的な力を結集して新しい成長基盤を創出し、地域?社会の課題解決やイノベーションの拠点としての機能を強化し、持続可能で地域に根ざし、世界に誇れる研究大学として発展して参りたいと思います。また、学内において将来を見据えた健全なる危機感を醸成し、厳しい環境のなかでも対立ではなく共創と協働により有機的なつながりを生み出し、大学の発展に向けて特色のある既存の研究を強化するとともに、新規性独創性のある教育研究事業に挑戦し、国内外での優位性を高めて、難局を乗り越えさらに飛躍できるよう頑張っていきたいと思います。
今年、一年、皆さんにとってすばらしい年でありますように、そして神戸大学がさらに発展するよう皆様方のご支援?ご協力を引き続きよろしくお願いします。
令和7年1月6日
神戸大学長 藤澤 正人