神戸大学医学部附属病院 国際がん医療?研究センター 消化器内科の森田圭紀特命准教授、株式会社シード、親和工業株式会社の研究グループが進めている「優れた防汚?防曇性能を有する内視鏡フードに関する研究開発?事業化」が、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の「令和2年度医工連携イノベーション推進事業 開発?事業化事業 (3年112,667千円予定)」に採択されました。

今後、産学連携により消化器内視鏡分野における先進的な国産医療機器開発に期待がかかります。

ポイント

  • 消化管腫瘍に対する内視鏡診断や治療は、近年大きく発展している。
  • 術中の内視鏡フードの汚れによる視界の確保が課題となっている。
  • コンタクトレンズの材料であるハイドロゲルを用いた世界初の防汚?防曇性能を有する内視鏡フードの研究開発、および事業化について採択された。

研究の背景

図1: 内視鏡に従来の内視鏡フードを装着した状態

近年、消化管腫瘍における内視鏡診断と治療は、内視鏡機器の進歩とともに大きな発展を遂げました。診断においてはハイビジョンや拡大観察技術などによって病変の視認性が向上し、治療においては内視鏡的粘膜下層剥離術 (ESD) (用語解説参照) が普及し、早期消化管がんの多くは体にメスを入れずに治療することが可能になりました。これらの内視鏡診断や治療を安全確実に行うためには内視鏡先端にフード (図1) を装着し、曇りのない明瞭な視界で施行することが重要です。

図2: ESD途中の汚れによる視界不良

そのためレンズクリーナーを内視鏡先端に塗布しますが、生体の消化管内においては粘液や血液あるいは脂肪などと接触する機会が多いため、長時間の使用においてはレンズクリーナーの効果が持続せず、汚れにより視界の確保が困難となります (図2)。そうなれば、その都度検査や治療を中断し、内視鏡を抜去し汚れを除去した後、再挿入を行わなければならず、術者のストレスや患者の負担が課題となっていました。

研究の内容

そこで我々は、コンタクトレンズの材料として用いられている親水性のハイドロゲルという素材に着目しました。従来の内視鏡フードは疎水性の高い素材で作られているため、粘液や脂肪などによる汚れが取れにくいのですが、このハイドロゲルを用いた世界初の内視鏡フードを作製することによって、内視鏡の送水機能による洗浄だけで容易に汚れを除去でき、曇りのない明瞭な視界を長時間保つことが可能となり、術者や患者への負担を軽減できると考えました。また、ハイドロゲルは既に安全性と生体親和性が保証されています。

今後の展開

本技術による市場は国内外を問わず、消化管内視鏡を使用する施設全てでニーズがあり、また、腹腔鏡や気管支鏡など消化管用以外の内視鏡にも適用拡大が見込まれると推察しています。また、コンタクトレンズ同様に光学的特性を変えることによって、ハレーションを抑えた立体的な観察効果や、粘膜深層に位置する血管の視認性の向上など様々な効果が期待できます。

用語解説

(出典:オリンパス おなかの健康ドットコム)

内視鏡的粘膜下層剥離術 (Endoscopic Submucosal Dissection: ESD)
電気メスを用いて病変周囲の粘膜を切開後、粘膜下層を剥離することによって早期消化管がんを一括切除する方法。従来外科手術をせざるを得なかった大きな病変でも治療が可能となります。