神戸大学経済経営研究所は、2023年7月20日に米?デューク大学および国際開発学会 アジア?アフリカものづくり研究部会と共催で、” Kobe-Duke Symposium on African Economic Development - Informality and Dynamism of African Economies”を開催しました。

サハラ以南アフリカでは雇用の約8割をインフォーマル事業者が生み出していると推定されています。各国政府や国際開発援助機関は、彼らは零細で生産性が低く、多くの意味で劣っており、そのフォーマル化が重要な政策課題であると考えています。しかし、インフォーマルに明確な定義は存在せず、インフォーマルとフォーマルを簡単に二分できるものではありません。本シンポジウムは、インフォーマル事業者を否定的な前提で捉える従来の見方をとらず、データと実際の観察事例に基づく実証的な立場から、インフォーマル事業者は力強く創造性を持つ存在としてアフリカ経済の包摂的経済発展の担い手になりうるという視点から、経済学と文化人類学の研究者が議論を発展させることを目的に開催されました。

セッションIでは、デューク大学文化人類学部のチャールズ?ピオット教授が従来のインフォーマルの概念を出発点としてより精緻に概念を定義することを根本的な課題として提議して活発な議論を呼びかけました。JICA緒方貞子平和開発研究所の峯陽一所長は、開発政策と開発協力は、人々の自発性から生まれる柔軟性、創造性、ネットワーク形成の力をプラスに転換するような発想が重要であると述べました。討論者の京都大学アジア?アフリカ地域研究研究科の平野美佐教授はインフォーマル事業者が他人の干渉を受けずに生計を立てられることを重視していると指摘しました。世界銀行アフリカ担当チーフエコノミストのアンドリュー?デバレン氏はアフリカでは圧倒的多数の零細企業と少数の大企業で構成され中堅企業がほとんど存在しないmissing middleの状況にあると指摘し、制度的特徴からインフォーマルとフォーマルを区別するよりも、マイクロビジネスという観点から企業規模?特性と生産性の関係を分析することが政策に結びつきやすいと述べました。

セッションIIでは、神戸大学経済経営研究所の浜口伸明教授が、デューク大学アフリカイニシアティブと世界最大のマイクロファイナンス機関であるASA Internationalが共同で行った顧客アンケート調査を用いて、多重対応分析を用いてインフォーマル指数を作成した結果を報告しました。あわせて、教育水準の低さや主に英語よりもスワヒリ語のような公用語をビジネスで使うといった事業者の特性が事業のインフォーマル度の高さと関連していることや、インフォーマル度の高さは事業の小ささと関連があるが、事業の成長とは必ずしも相関していないという分析結果を紹介しました。京都大学アジア?アフリカ地域研究研究科の高橋基樹教授は、数年にわたり観察したケニアのソファー製造業者の実態を写真を使って詳細に紹介し、事業者の数が増えているが各事業者の規模が成長しない「水平的成長」を続けていると結論付けました。討論者の京都大学アジア?アフリカ地域研究研究科博士後期課程の松本愛果氏はアンケート調査で回答者が良く思われたいと考えて答える心理的バイアスが数値化に与える問題を提議するとともに、必威体育感染症パンデミック後のインフォーマル事業者の回復力が強かったというケニアで行った調査結果を紹介しました。ケープタウン大学博士課程のダイアナ?ニャチオ氏はケニアの労働市場においてインフォーマルな形態の雇用のシェアが急速に高まっている状況を包括的に説明しました。

セッションIIIでは、日野浩之神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー(デューク大学客員研究員)の司会の下、パネルディスカッションが行われました。長年タンザニアで現地調査を続けている立命館大学先端総合学術研究科の小川さやか教授は、不確実性への対応、社会的認知欲求、個人的信頼関係の3つの要素が、人的ネットワークを保ちつつ独立自営で行うインフォーマル事業者の特徴であると述べました。最近までナイジェリア大統領の経済政策アドバイザーを務めていたアデイミ?ディポル氏はインフォーマル事業者がアフリカ経済に建設的な役割が果たせる存在であることに同意しつつ、彼らも納税、法令順守、従業者の人材育成などの公的な枠組みにこれまで以上に積極的に参加するべきであり、政府はインフォーマル事業者と結束を強めるべきであると主張しました。ケープタウン大学南部アフリカ労働開発研究ユニット長であるマレー?レイブラント教授は、南アフリカにおいてインフォーマル事業者は社会階層ピラミッドの底辺を構成する主要な存在でありながら、その特徴がまだ十分に解明されているとは言えず、政府は有効な政策を打ち出せていないと述べ、今後さらに研究を進める必要性を訴えました。ブルキナ?ファソ出身で神戸大学国際協力研究科前期課程在学中のアブドゥル?カリム?ソウベイガさんは、インフォーマル事業者は都市のサービス業や製造業だけでなく、農村にも放牧などの形態で広くみられていると紹介し、分散的に存在しているため政府がフォーマル化を働きかける政策を実施することは困難であると述べました。

最後に日野教授がシンポジウムで提議された論点を整理し、今後の研究の課題として、(1)学術的にあいまいさがなく、かつ分析と政策立案に運用しやすいインフォーマルの定義を早急に確立する必要があること、(2)インフォーマルビジネスとマイクロビジネスの違いを明確にすること、(3)ケーススタディを相互に比較可能な形で行えるように共通の枠組みの下で行うこと、(4)インフォーマルとその要因となる個人の特性の関係、およびインフォーマルとその結果としてのビジネスの成長の関係の相互の関連を実証的に分析するモデルを確立すること、(5)インフォーマルビジネスのダイナミックな成長を生産性で評価する分析を行うことを指摘しました(詳しくはHino, Kobe-Duke Symposium on Informality and Dynamism of African Economies: Summing-upをご覧ください)。

シンポジウムはハイブリッド形式で行われ、日本、アフリカ、アメリカから研究者?民間企業?大学院生?官公庁所属の方等、50名を超える参加者がありました。各研究報告後の質疑応答では、多くの質問?意見交換が行われ盛況のうちに終了しました。当日のプログラムに関しては、下記のウェブサイトをご参照ください。

https://www.rieb.kobe-u.ac.jp/seminar/file/2023/20230720.pdf

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