本学名誉教授の野口武彦先生が2024年6月9日、老衰のため逝去されました。

 野口武彦先生は、1968年に31歳の若さで神戸大学文学部の講師としてご着任以来、2001年に定年退職されるまで33年間、神戸大学で教鞭を執る傍ら、近代文学と近世文学の垣根を越え、縦横無尽に精力的に研究活動をされました。1973年『谷崎潤一郎論』で亀井勝一郎賞をはじめ、「『源氏物語』を江戶から読む」で芸術選奨文部大臣賞、1992年『江戸の兵学思想』で和辻哲郎文化賞など数々の成果を世に送り出されました。野口先生の旺盛な研究のエネルギーは、多くの学生たちに知的刺激を与え、日本国内のみならず、海外に至るまで数多い日本文学研究者を輩出されました。一方、在職中は、山口波津女基金実行委員として山口誓子記念館と誓子?波津女俳句俳諧文庫設立に参画、また附属図書館副館長などを歴任され、大学の運営にも大いに貢献されました。1995年1月、阪神淡路大震災では芦屋の自宅で被災され、体調を崩されましたが、その危機を乗り越え、震災の経験から97年に『安政江戸地震 災害政治権力』を刊行し、研究者としての執念を燃やされました。

 退職後は、近世?近代の思想と文学というご自身の研究分野を確立しつつ、今まであまり研究領域として論じられてこなかった近世と近代の通廊としての幕末研究に精力を注ぎ、『幕末気分』で2003年読売文学賞を受賞されるなど、幕末研究の多くの著書を著されました。2010年に脳梗塞などを患い、後遺症で執筆困難もありながら、最期まで書き続けられ、研究者として姿勢を貫かれました。

 この度、野口先生の逝去に接し、日本の文学、歴史、思想という研究枠組みを越え、俯瞰的に日本人?日本の姿を捉え、日本学研究に新たな地平を切り拓き、世界の日本学発展に多大なる貢献をされた野口武彦先生を偲びつつ、ご冥福を、心よりお祈り申し上げます。

 

令和6年6月24日
神戸大学 学長 藤澤 正人

 

(総務部広報課)