阪神?淡路大震災から来年で30年となるのを前に、神戸大学と神戸新聞社が連携し、震災の教訓や将来への備えについて考える授業が6月11日と7月9日、本学で行われました。全学共通科目「阪神?淡路大震災と都市の安全」の一環で、約170人の学生が受講。阪神?淡路大震災をはじめとする過去の災害から、災害情報との向き合い方や防災?減災の取り組みなどを学び、それぞれが「命を守るための備え」について考えました。
初回は、神戸新聞社経営企画局の冨居雅人局次長が「情報で、いのちを守る」と題して講義しました。過去の災害を例に、デマやフェイク画像の拡散、根拠のない情報から日用品の買い占めが起きた状況などを説明。メディアリテラシーの必要性を強調しました。
大学生はSNSを情報収集源としている場合が多いことから、「ネットだけに頼っていると、興味がある範囲内の情報だけに接するようになり、『情報の偏食』が起きてしまう。発信者や発信時期などから信頼性を確認したうえで、幅広い情報を得ることを意識して」と呼びかけました。
さらに、阪神?淡路大震災や東日本大震災、2018年の西日本豪雨などの被災状況に触れ、「災害では必ず想定外のことが起こる。根拠なく信じ込んでいる常識を排し、南海トラフ巨大地震などの大災害に備えてほしい。わたしたちは、阪神?淡路の『災害後』を生きているのではなく、過去と将来の災害の『災間』を生きている」と強調しました。
学生が提出したレポートでは、過去に遭遇した災害でデマに惑わされた経験をあらためて思い起こしたり、授業をきっかけに一人暮らしの備えのあり方を考えたりするなど、さまざまな感想や意見が寄せられました。
第2回の授業では、神戸新聞社論説委員室の長沼隆之?論説副委員長が「『伝える』は『備える』」と題して講義し、阪神?淡路大震災の被災経験や災害の取材経験などを語りました。
阪神?淡路大震災当時、入社5年目だった長沼副委員長は西宮市内の自宅で被災しました。タンスや本棚の下敷きになって埋もれている間、たびたび起こる余震に死の恐怖を感じたといいます。救助された後、取材を始めましたが、「近くのアパートで亡くなった学生の遺体にはカメラを向けられなかった」と記者としての葛藤を語りました。
一方で当時、多くの記者が葛藤を抱えながら現場の状況を撮影する努力を続け、それが現在、貴重な記録となっていることを紹介。記憶の継承が世代交代とともに困難になる「30年限界説」にも触れ、「伝え続けなければ、備えにはつながらない。神戸新聞社内でも阪神?淡路大震災を知らない記者が多くなり、勉強会や実際の災害取材を重ねて継承の努力をしている」と話しました。
授業の後半では、災害の歴史資料の保存?活用を研究する本学の奥村弘副学長と対談しました。奥村副学長は「阪神?淡路大震災当時と現在では社会が大きく変わり、商店主など地域の支え手が減少している。今年1月の能登半島地震でも過疎化や高齢化が課題になっているが、都市部でもコミュニティーのあり方は大きな問題」と指摘し、「学生の皆さんには、自分を守る『私』の視点だけでなく、地域を支える『私たち』の視点を持ってほしい」と語りかけました。
長沼副委員長は、自身の被災の教訓をもとに「住宅耐震化などの『家を守る』努力は、『命を守る』ことと同じ。自分の命を守ることができれば、だれかを助けることもできる」と強調。「災害は社会の最も弱い部分をあぶり出す。災害関連死や孤独死など、阪神?淡路で発生した問題が能登半島地震の被災地でも起きている。過去から学ぶと同時に、今起きている災害の課題にも目を向け、自分がどう動くかを考えてほしい」と話しました。
(地域連携推進本部、都市安全研究センター、総務部広報課)