神戸大学は1月11日、阪神?淡路大震災から30年の経験や教訓、研究成果を発信する「阪神?淡路大震災30年シンポジウム」を、神戸大学百年記念館六甲ホール(神戸市灘区)で開催しました。本学の復興の歩みを振り返るとともに、幅広い分野の研究者が震災以後の研究の進化や課題について議論しました。1月17日の震災30年の節目を前に、市民の関心も高く、会場とオンラインを合わせて約250人が参加しました。

開会のあいさつをする藤澤正人?神戸大学長(写真はいずれも神戸大学百年記念館六甲ホール)

シンポジウムは、神戸大学阪神?淡路大震災30年事業委員会、都市安全研究センター、地域連携推進本部が主催し、国立大学協会レジリエント社会?地域共創シンポジウムの一環として実施。午前の第1部ではまず、藤澤正人学長が開会のあいさつに立ち、医師として震災直後から手術や医療活動に奔走した経験などを振り返りつつ、全国からの支援にあらためて感謝の意を示しました。そのうえで、学生?教職員合わせて47人(旧神戸商船大学を含む)を失った被災地の大学の責務として、今後も安全?安心な社会の構築に向けた研究、教育を進めていく決意を述べました。

基調講演を行った奥村弘理事?副学長は、「境界をこえて-実践的研究と教育の展開」と題し、本学の30年の歩みとその特徴を語りました。被災地の中心部にある国立大学として、市民とともに復旧?復興に向き合ってきた道のりに触れ、「多様かつ総合的な分野で社会からの対応を求められ、それに実直にこたえようとしてきた。阪神?淡路大震災は日本で初めて、全国の研究者が結集して防災?減災の総合的、実践的研究を進めた災害であり、本学も既存の学問領域を越えて総合的な知の形成と継承に取り組んできた」と述べました。そして、その流れが、災害という領域にとどまらず、さまざまな社会課題の解決を目指す研究?実践に発展した点を強調し、本学が研究基盤を支える資料の体系的蓄積にも力を入れてきたことを紹介しました。

第1部には、2人の卒業生も登壇し、奥村理事と鼎談を行いました。

元NHKアナウンサーとして震災報道に携わってきた住田功一?大阪芸術大学教授は、震災直後から神戸市内での取材を始め、避難所となった神戸大学のキャンパスにも入りました。当時の大学の様子、火災で学生が犠牲になったアパート跡などの写真を紹介しながら、「なぜこれほど多くの学生が亡くなったのか、という思いが自分の30年の原点にある。一人一人の死に向き合い考えていくこと、語り継ぎ、語りなおすことの大切さを、今あらためて感じている」と語りました。

震災の2年前に卒業し、大阪の企業に勤務していた映画監督?脚本家の安田真奈さんは、当時経営学部3年生だった映画サークルの後輩を亡くしました。震災の2か月後、後輩が制作した作品の追悼上映会が神戸大学で開かれた際の状況などを振り返り、「神戸に来ると、大阪とは異なる重い現実があり、心の置きどころが難しかった」と体験を語りました。また、2018年の大阪府北部地震の経験などに触れて、防災の知恵を伝え続ける重要性を強調し、「テレビで繰り返し放映されるような目立つ被害だけでなく、身近な生活の中で起きた被害や教訓を伝えることも大切。だれもが取り組みやすい形で防災を考える社会になってほしい」と話しました。

阪神?淡路大震災当時の経験などを語った(右から)卒業生の安田真奈さん、住田功一さんと、奥村弘理事?副学長

震災以降継続している神戸大学の災害ボランティア、多様な社会貢献についての発表もありました。地域連携推進本部ボランティア支援部門長の山地久美子特命准教授と4つの学生団体が、能登半島地震の被災地支援をはじめさまざまな活動を報告。阪神?淡路大震災直後に発足し、30年間活動を続けている「神戸大学学生震災救援隊」のメンバーは「先輩からの思いを受け継ぎ、継続的にまちと人にかかわることを大切にしている」と話しました。

ネットワーク共創型の災害研究へ

午後の第2部は、都市安全研究センターの滝口哲也センター長のあいさつで開会し、さまざまな分野の研究者ら6人が震災以後の研究成果などを報告。今後を見据えた防災?減災、復興のあり方についてパネルディスカッションを行いました。

神戸大学からは、大石哲?都市安全研究センター教授(防災情報技術)、鍬田泰子?工学研究科教授(ライフライン地震工学)、桜井愛子?国際協力研究科教授(防災教育)、松下正和?地域連携推進本部特命准教授(歴史学)の4人が参加。学外からは、神戸大学卒業生の津久井進?元兵庫県弁護士会会長(災害法制)、本学と災害科学分野の包括協定を結んでいる東北大学の窪田亜矢?大学院工学研究科教授(地域デザイン論)が登壇しました。

ディスカッションでは、進化する防災情報技術を活用するために「信頼できるコミュニケーター」の存在が不可欠となることや、防災教育における教職員の人材育成の必要性、教育にとどまらない実践の重要性などが示されました。また、被災者支援の法制度や都市計画に共通する課題として「制度や計画という枠組みを作って終わりではなく、本来の目標を見失わず、少しでもよりよい未来につながる運用や努力をすることが重要」といった意見も出されました。研究や実践の姿勢として、「矛盾や両義的なものから目をそらさず、考え抜くこと」「疑う力の重要性」「課題を課題として認識する大切さ」なども指摘されました。

神戸大学内外の研究者、実務家が防災や復興の課題などを議論したパネルディスカッション

最後に、都市安全研究センター副センター長の近藤民代教授が議論を総括し、「私たちはこの30年、防災?減災研究の総合化、体系化を目指してきたが、今後はそれぞれの学問分野の中で防災?減災を『主流化』し、各分野がネットワークとしてつながる『ネットワーク共創型』の方向に進んでいくべきだと思う。気候変動を背景に、これからは災いが日常化する社会になるだろう。そうした時代の中で、どのような学問領域でも災害研究に役立たない分野はない、ということを心に刻んで歩んでいきたい」と述べました。

シンポジウム会場では、本学が発行したブックレット「震災30年を未来へつなぐ-神戸大学と阪神?淡路大震災」が配布されたほか、学生団体のボランティア活動のパネル展示などもあり、熱心に見入る参加者の姿が見られました。

(阪神?淡路大震災30年事業委員会、都市安全研究センター、地域連携推進本部)