神戸大学工学研究科と医学研究科は、産学官連携事業を通じて医療に利用可能な紫外線をプラズマにより発生させる新しい光源を世界で初めて共同で開発しました。
この技術を応用した「オーダーメイド皮膚治療器」は医療機器としての認証取得の段階にあり、2015年10月から販売が開始される予定です。アトピー性皮膚炎や白斑、乾癬といった皮膚疾患に効果が期待できます。また、高い強度の光線を患部にのみ照射することが可能で、治療時間の短縮や患者の治療ストレスの軽減なども期待されます。
紫外線にはA波 (UVA:波長400~315nm)、B波 (UVB:波長315~280nm)、C波 (UVC:波長280nm未満) があり、工業利用のみならず医療、環境分野など幅広い分野で用いられ、その光源の多くが水銀を使用しています。しかし、2013年10月の「水銀に関する水俣条約」採択を受け、水銀を一定量以上含んだ照明ランプなどの製品の製造や輸出入が2020年以降は原則禁止となり、水銀を使用しない光源の開発が急務となっていました。
神戸大学工学研究科の喜多隆教授は、2007年から水銀を使わない深紫外光源を実現するために無害で環境に優しい新しい深紫外蛍光体の開発を進めてきており、これを利用して電子励起タイプとプラズマ励起タイプの光源開発に成功しました。特に、プラズマ励起タイプの紫外光源開発では2012年から同医学研究科の錦織千佳子教授、株式会社ユメックス、オリオン電機株式会社、プレキシィ合同会社、大電株式会社、兵庫県立工業技術センターと共同で医療用の光線療法に利用可能なUVBを発生させる水銀を使用しない光源開発に取り組みました。その結果、環境負荷の高い水銀のかわりに医療用画像検査の造影剤として人体に利用されているガドリニウムを含む蛍光体を用い、プラズマにより紫外線を発生させるフィルム型紫外光源の開発に世界で初めて成功しました。この光源は、現在医療現場で頻用されているナローバンドUVBに近似した波長310nmの光のみを発光するため、日焼け反応を起こさずに高い治療効果を期待でき、光線療法に最適です。
さらに、蛍光体を励起するための手法として従来から知られていた電子励起法ではなく、プラズマテレビの技術を応用したプラズマ励起法を採用したことで、低コストでの大面積化が容易となりました。また、水銀を用いた光源とは異なり、特定の部分だけを発光させることができることが最大の特徴です。この技術を活用した「オーダーメイド皮膚治療器」は選択した部位のみにUVBを照射することができ、患者の負担が軽減されます。現在、医療機器としての認証を取得する段階で、水銀を用いた従来の治療器と同等の効果が期待できることが実証され、2015年10月に販売が開始される予定です。
喜多教授は、「今回の研究成果は医療用紫外光源の勢力図を塗り替え得る画期的なもの。私たちは殺菌効果のある波長 (263nm) をもつ光源の開発にも既に成功しており、今後さらに改良を進め、将来的には水の殺菌などに活用したい」と話しています。