神戸大学医学研究科戸田達史教授、金川基講師、小林千浩准教授、東京都健康長寿医療センター遠藤玉夫副所長、大阪府立母子保健総合医療センター和田芳直研究所長らの研究グループは、筋ジストロフィーの発症する新たな原因を世界で初めて発見しました。今後、筋ジストロフィーへの治療法開発が期待されます。

この研究成果は、2月26日に米科学雑誌「Cell Reports」に掲載されました。


筋ジストロフィーは、筋繊維の破壊や変性と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮や筋力低下が進行する遺伝性の疾患で、国内患者数は約2万5000人で、国から難病指定を受けています。特に日本人に集中的に多い福山型筋ジストロフィーは、ほとんど歩行不能の重症の疾患です。

これまでの研究で、福山型筋ジストロフィー及び類縁疾患の発症原因として、筋細胞表面にあるたんぱく質「ジストログリカン」に結合している糖鎖に異常が起きること、「ISPD」「フクチン」「FKRP」といった原因遺伝子が正しく機能していないことは知られていました。しかし、糖鎖の構造や遺伝子の働きは解明されていませんでした。

戸田教授らの研究グループは、培養細胞に生体と同じ糖鎖をつくらせることに成功し、2002年にノーベル化学賞を受賞した田中耕一氏が開発した技術「糖ペプチド質量分析法」を応用して糖鎖の成分ごとの質量を測定しました。その結果、これまでバクテリアや一部の植物でしか確認されていなかった「リビトールリン酸」という珍しい糖が糖鎖の中に存在することを発見しました。さらに、これまで機能が不明だった筋ジストロフィーの原因遺伝子「ISPD」「フクチン」「FKRP」は、ヒトの体内でリビトールリン酸をつくる酵素であることがわかりました。実際に、筋ジストロフィーの原因遺伝子を欠損させた患者モデル細胞ではリビトールリン酸が欠損していたことから、リビトールリン酸の合成障害が病気の原因であることが明らかになりました。また、リビトールリン酸をつくる材料となる「CDP-リビトール」を患者モデル細胞に投与すると、糖鎖の異常を解消することができました。

戸田教授は、「これまで原因不明だった筋ジストロフィーが発症する仕組みが明らかになったことで、治療法開発に拍車がかかる。また、リビトールリン酸が哺乳類でも確認されたことで、高等生物が細胞外環境の情報を得る手段やその進化の過程の解明にもつながるのでは」と話しています。

筋細胞表面の糖鎖にはリビトールリン酸という珍しい糖が含まれる。筋ジストロフィーに関係する遺伝子、ISPD、フクチン、FKRPがリビトールリン酸の糖鎖を合成する酵素で、どれかに変異があると糖鎖をつくることができず病気になる。

掲載論文

タイトル
Identification of a Post-translational Modification with Ribitol-Phosphate and Its Defect in Muscular Dystrophy
DOI
10.1016/j.celrep.2016.02.017
著者
Motoi Kanagawa, Kazuhiro Kobayashi, Michiko Tajiri, Hiroshi Manya, Atsushi Kuga, Yoshiki Yamaguchi, Keiko Akasaka-Manya, Jun-ichi Furukawa, Mamoru Mizuno, Hiroko Kawakami, Yasuro Shinohara, Yoshinao Wada, Tamao Endo, Tatsushi Toda
掲載誌
Cell Reports

研究者