神戸大学医学研究科小児科学分野の森岡一朗特命教授と、同医学部附属病院総合周産期母子医療センターの岩谷壮太助教らの研究グループは、理化学研究所脳科学総合研究センター細胞機能探索技術開発チームの宮脇敦史チームリーダーと共同で、ニホンウナギ由来の蛍光タンパク質によるビリルビン測定が新生児黄疸の管理に応用できることを臨床的に証明しました。この検査手法は、採取する血液量が限られる患者を扱う新生児医療にとって理想的な方法で、新生児の黄疸管理方法を革新することが期待されます。
この研究成果は、6月21日 (日本時間) に英国科学雑誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。
日本では、新生児医療技術の発展や新生児集中治療室の整備により、新生児の死亡率は1000人出生あたり0.9人と世界的に最も低い水準を維持しています。その一方で脳性まひや難聴などの後遺症の原因として黄疸 (高ビリルビン血症) が増加しており、早産児の黄疸管理法の見直しや改善が急務となっています。
しかし、現行のビリルビン測定法はいまだに世界的標準化がなされておらず、測定方法の相違による測定値の乖離があるほか、ヘモグロビンの混入や脂肪製剤の混入などによる正確な測定ができないなどの問題点があり、少量の血液サンプルで測定できる高感度のビリルビン測定法の開発が求められていました。
森岡特命教授らは、2013年に理化学研究所の宮脇敦史チームリーダーらが開発した、ニホンウナギの筋肉由来の蛍光タンパク質 (UnaG) を用いて血液中の脂溶性の非抱合型ビリルビン濃度を従来の1万倍の高感度で直接的に測定できるキット (UnaG法) に着目。UnaG法で非抱合型ビリルビンを測定可能か、また光線療法や高抱合型ビリルビン血症、溶血、脂肪製剤により測定に影響がでないかを確認するため、大規模な測定実験を行いました。
新生児92例から得られた血清140検体 (光線療法中の35検体を含む) について検証したところ、現行の測定法である酵素法とUnaG法で測定した非抱合型ビリルビン値は極めて良好な相関が見られ、光線療法の有無による差はありませんでした。
また、高抱合型ビリルビン血症が認められる14検体において、酵素法とUnaG法で算出した非抱合型ビリルビン値は同等であったほか、UnaG法ではヘモグロビンや脂肪製剤の混入による測定結果への影響がないことがわかりました。
今回の測定実験の結果から、UnaG法は1マイクロリットルというごく少量の血液量で、現行の酵素法と同等レベルの非抱合型ビリルビン濃度の測定が可能であることを臨床的に証明することができました。採取できる血液量が限られる新生児医療におけるビリルビン測定法として革新的なものであり、黄疸を原因とする早産児の脳性まひや難聴といった後遺症の抑制につながることが期待されます。今後は、実際の臨床現場での使用に向けてより簡便な測定キットの開発をすすめる予定です。
掲載論文
- タイトル
- “Fluorescent protein-based detection of unconjugated bilirubin in newborn serum”
- DOI
- 10.1038/srep28489
- 著者
- Sota Iwatani, Hajime Nakamura, Daisuke Kurokawa, Keiji Yamana, Kosuke Nishida, Sachiyo Fukushima, Tsubasa Koda, Noriyuki Nishimura, Hisahide Nishio, Kazumoto Iijima, Atsushi Miyawaki, Ichiro Morioka
- 掲載誌
- Scientific Reports