神戸大学の西村和雄特命教授と同志社大学の宮本大教授?八木匡教授の研究グループは、学習指導要領の変更による中学校時代の理数系科目の授業時間の減少が、近年指摘されている日本の研究開発力低下の一因であることを、初めて実証的に明らかにしました。
本研究により、初等?中等教育における理数教育のあり方を見直し、人材育成、教育投資、研究開発の効率化と経済成長の実現に役立つ知見が得られました。
研究の内容
近年の日本では、研究開発力が低下しつあることが、文部科学省の科学技術白書でも指摘されています。特許出願数が多い国の推移をみると、日本だけが特許出願件数の絶対数が減少しつつあり、その結果、アメリカ、中国に後れを取り、韓国との差も少なくなってきています。一人当たり国民所得や工学系論文発表数も、相対的かつ絶対的に低下し、世界のトップレベルから引き離されています。
さらに、日本では少子化の進展だけでなく、学生の理系離れによって国内の研究開発者の供給も減少傾向にあります。こうした学生の理系離れには、学習指導要領の変更にともなう理数系科目の教科軽減が、学力低下だけでなく学習意欲をも低下させてきたことも一因となっているとの指摘もあり、学習指導要領の変更による影響が懸念されます。国内外で優秀な研究開発者を獲得することが容易でない今日的な状況を考慮すると、これからの日本にとって優秀な研究開発者の育成を検討する上で、まずは学習指導要領の影響を検証することは重要な課題です。
当研究グループは、学習指導要領が変更された年で年代を分け、高校時代における理数系科目の学習状況と、技術者になってからの特許出願数と特許更新数の関係を年代ごとに分析しました。
その結果、中学時代の3年間ゆとり教育を受けた47歳以下の世代と、それより上の世代では、特許出願数と特許更新数に大きな違いがあることが明らかになりました。また、中学時代の数学と理科の時間数が、高校時代における数学や物理を得意とする度合いと相関し、数学や物理が得意であるものは相対的に研究成果が高いことが示されました。
この分析結果より、新しい世代ほど、中学時代の理数系科目の授業時間数が少なく、理数系科目を不得意として、技術者になってからの研究成果が少ないことが分かりました。学習指導要領の変更のたびの、理数系科目の授業時間を減少が、研究開発者として必要な人的資本の蓄積を停滞させてきたと考えられます。
以上の結果は、日本の教育、特に、初等?中等教育における理数教育のあり方、人材育成、教育投資、研究開発の効率化と経済成長の実現に役立つ知見です。