神戸大学大学院理学研究科の小手川 恒 (こてがわ ひさし) 准教授ら研究グループは、香港中文大学、京都大学との共同研究により、クロム系新超伝導体、クロムヒ素において特異な電子状態の観測に成功しました。今後、超伝導体探索や物質設計にとって有益な情報となることが期待されます。

この研究成果は、6月5日に、英国科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。

クロムヒ素 (CrAs)

  • 磁気的性質の強い金属。
  • 2014年、神戸大学の研究グループ等が圧力下で超伝導を示すことを発見。
  • クロム化合物初の新超伝導体として注目されている。

ポイント

  • 一般的な超伝導体とは異なる電子状態をCrAsにおいて発見した。
  • CrAsの超伝導機構は未だ解明されていない。
  • 今回の研究成果は、CrAsの超伝導機構の解明、新しい超伝導体の探索、今後の物質設計などに有益な情報となることが期待される。?

研究の背景

超伝導体として有名なのは銅酸化物高温超伝導体や鉄系超伝導体ですが、これらは層状の2次元的な結晶構造を有しています。それに対してクロムヒ素はクロムがジグザグ鎖を形成した非共型と呼ばれる結晶構造を持っており (図1)、その結晶構造と超伝導との関連に興味が持たれています。

図1 新超伝導体、鉄系超伝導体、銅酸化物高温超伝導体の結晶構造

研究の内容

今回、香港中文大学、神戸大学、京都大学の研究グループは、極低温において、超伝導体クロムヒ素の電気抵抗が磁場に対して直線的に増加することを発見しました。通常の金属では抵抗が磁場の2乗に比例するため放物線的なグラフを描くのに対し、クロムヒ素の磁気抵抗は線形のグラフを描きます (図2)。線形磁気抵抗は固体中の電子の質量が有効的に小さくなる非常に特殊な状況で生まれ、非磁性の低キャリア物質などで実現する例がありますが、クロムヒ素は磁気的性質が強い金属で、従来の線形磁気抵抗を示す物質とは性質が大きく異なります。クロムヒ素の特殊な結晶構造がこの特異な電子状態を作り出していると考えられます。

本研究成果により、クロムヒ素の超伝導が通常とは異なる特異な電子状態で出現していることが分かり、今後の超伝導体探索や物質設計に対して有益な情報となることが期待されます。

図2 CrAsにおける電気抵抗の磁場依存性のグラフ

謝辞

本研究は神戸大学理学研究科の播磨尚朝教授が領域代表を務める新学術領域「J-Physics:多極子伝導系の物理」の支援を受けて行われました。クロムヒ素のような非共型の結晶構造を持つ物質に焦点を当てた研究プロジェクトであり、今後も新しい研究成果が挙げられることが期待されます。

論文情報

タイトル
Quasilinear quantum magnetoresistance in pressure-induced nonsymmorphic superconductor chromium arsenide
DOI
10.1038/ncomms15358
著者
Q. Niu, W. C. Yu, K. Y. Yip, Z. L. Lim, H. Kotegawa, E. Matsuoka, H. Sugawara, H. Tou, Y. Yanase & Swee K. Goh
掲載誌
Nature Communications

関連リンク

研究者