神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師らの研究グループは、沖縄県の石垣島でホンゴウソウ科の菌従属栄養植物の新種を発見し、「オモトソウ」と命名しました。

本研究成果は、7月25日に、国際誌「Phytotaxa」にオンライン掲載されました。

研究の背景

植物を定義づける重要な形質として「葉緑素をもち、光合成を行う」ことが挙げられます。しかし、植物の中には、光合成をやめてキノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物と呼ばれます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期のわずかな期間しか地上に姿を現しません。また、花期が短くサイズも小さいものが多いため、見つけることが非常に困難です。日本は、植物の戸籍調べが世界でも最も進んでいる地域であり、新種の植物の発見は、年に数件しかありません。その中で菌従属栄養植物は例外的であり、正確な分布情報が解明されていない植物群といえます。そこで末次健司特命講師は、共同研究者らと、日本国内における菌従属栄養植物の分布の調査と、その分類体系の整理に取り組んでいます。

研究の内容

研究の一環として、2016年10月に、末次氏の共同研究者である西岡龍樹氏 (京都大学農学部学部生) は、石垣島の於茂登岳の周辺で、未知の菌従属栄養植物を発見しました。知らせを受けた末次氏が形態的特徴を精査した結果、この植物は、ホンゴウソウ科のホンゴウソウに近縁であるものの、雄花の先端の球状の突起を3つもつホンゴウソウに対し、6つの球状の突起を持つ点でホンゴウソウと異なっていることがわかりました。そこで、発見場所の地名を冠して、「オモトソウ Sciaphila sugimotoi Suetsugu & T. Nishioka」と命名しました。学名の「sugimotoi」は、形態の精査に重要な役割を果たした追加の標本を採取してくださった杉本嵩臣氏 (九州大学生物資源環境科学府大学院生) に敬意を表して名前を織り込んだものです。このオモトソウは、地上部の高さは5~10cm程度で、紫色の直径2mmほどの花をつけます。

図1.石垣島で初めて発見された植物「オモトソウ」

撮影 杉本嵩臣

図2. オモトソウとホンゴウソウの雄花の比較

左) オモトソウ (球状の突起は6個) 撮影 杉本嵩臣
右) ホンゴウソウ (突起は3個) 撮影 山下大明

発見の意義

菌従属栄養植物は、森の生態系に入り込み、寄生する存在です。このため、生態系に余裕があり、資源の余剰分を菌従属栄養植物が使っても問題のない安定した森林でなければ、菌従属栄養植物が生育することはできません。つまり、菌従属栄養植物が存在するという事実は、肉眼では見えない菌糸のネットワークを含めた豊かな地下生態系の広がりを示しています。かつて南方熊楠も、ホンゴウソウを初めとする光合成をやめた植物が生える場所こそ森の聖域であると述べ、そういった環境の貴さを訴えました。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた新種の光合成をやめた植物の発見は、於茂登岳の周辺に広がる原生林の重要性を改めて示すものです。

用語解説

※1 菌従属栄養植物
光合成能力を失い、菌根菌や腐朽菌から養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、タヌキノショクダイ科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。

論文情報

タイトル
Sciaphila sugimotoi (Triuridaceae), a new mycoheterotrophic plant from Ishigaki Island, Japan
DOI
10.11646/phytotaxa.314.2.10
著者
Kenji Suetsugu, Tatsuki Nishioka
掲載誌
Phytotaxa

研究者

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