神戸大学大学院工学研究科先端膜工学センターの松山秀人教授、神尾英治助教らの研究グループは、イオンのみから構成される液体(イオン液体※1)を大量に含みながらも高い強靭性を有するゲルを開発しました。
この研究成果は、11月8日に、国際学術雑誌「Advanced Materials」に掲載されました。
ポイント
- 無機/有機のダブルネットワーク構造を利用することで、イオン液体を大量に含みながらも高い強靭性を示すゲルを開発することに成功。
- 無機/有機のダブルネットワーク構造によりゲルの高強度化を達成した事例は世界初。
- 今回の研究により得られたゲルは、イオン液体由来の性質を活かしたCO2分離膜や二次電池の電解質などへの応用が期待される。
研究の背景
イオン液体はイオンのみから構成される液体であり、不揮発性や高い熱的安定性などのユニークな性質を持つ液体です。このイオン液体を含むゲルはイオンゲル※2と呼ばれており、イオン液体由来の性質と優れたイオン液体保持性から二次電池(充電式電池)の電解質やガス分離膜への応用が期待されています。しかしながら、従来のイオンゲルは機械的強度が低いという欠点があり、高強度のイオンゲルの開発が求められていました。
研究の内容
イオンゲルのネットワーク(網目)として、シリカ粒子から構成される無機のネットワークと有機のポリマーネットワークが相互に絡まりあった特殊なゲルネットワーク(無機/有機相互侵入網目構造※3)をイオン液体中に形成することで、イオンゲルの強度を飛躍的に向上させることに成功しました。開発したゲルは25MPa以上の圧力で押しても破断しないことが分かりました。開発された高強度イオンゲルの強度発現メカニズムは、ダブルネットワーク※4という特殊な相互侵入網目構造に由来しており、ゲルに応力が与えられた際に、硬くて壊れやすいシリカ粒子のネットワークが破壊されることで、与えられたエネルギーが散逸され、高い強靭性が発現されると考えられます。また、ゲルに含まれるイオン液体はほとんど揮発しないため、長期保存安定性を有しています。さらに、高温真空下に長時間晒しても性能を損なうことはなく、高温場でも利用可能です。
今後の展開
今回の研究により得られたゲルは、イオン液体由来の性質を活かしたCO2分離膜や二次電池の電解質などへの応用が期待できます。今後はこのゲルの応用について企業と連携しながら実用化を目指すと共に、ゲルの強度発現メカニズムについて更に詳細な解析を行い、最適ネットワークの設計による更なる強度向上、高性能化を進めます。
用語解説
- ※1 イオン液体
- 室温で液体状態の塩。イオン液体は、構成成分のイオンのサイズが大きいため融点が低く、室温でも液体として存在できます。
- ※2 イオンゲル
- イオン液体を溶媒としたゲル。イオン液体を網目構造に保持させることで作製され、大部分がイオン液体からなるにも関わらず固体として振る舞います。
- ※3 相互侵入網目構造
- 独立した2種類の網目構造が互いに絡み合っているネットワーク構造。
- ※4 ダブルネットワーク
- 相互侵入網目構造の中で、特に硬い網目と柔らかい網目から構成されるネットワーク構造。硬い網目と柔らかい網目の組み合わせにより非常に高い強靭性を示します。
謝辞
本研究はJST-ALCA (Agency-Advanced Low Carbon Technology Research and Development Program) および A-step (#AS242Z03278M) の援助を受けて行われました。
論文情報
- タイトル
- “Inorganic/Organic Double-Network Gels Containing Ionic Liquids”
- DOI
- 10.1002/adma.201704118
- 著者
- E. Kamio, T. Yasui, Y. Iida, J. P. Gong and H. Matsuyama
- 掲載誌
- Advanced Materials