神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師らの研究グループは、沖縄県の石垣島で未知の光合成をやめた植物を発見し、新たに「ノソコソウ」と命名しました。詳しく検討した結果、この植物は、ソロモン諸島とインドネシアのパプア州でのみ分布が確認されている種であることがわかりました。これらの島々から遠く離れた日本で、この植物が新たに発見されたことは驚くべきことです。
本研究成果は、2月28日に植物分類学の国際誌「Acta Phytotaxonomica et Geobotanica」に掲載されました。
研究の背景
植物を定義づける重要な形質として「葉緑素をもち、光合成を行う」ことが挙げられます。しかし、植物の中には、光合成をやめてキノコやカビの菌糸を根に取り込み、それを消化して生育するものが存在します。このような植物は、菌従属栄養植物※1と呼ばれます。菌従属栄養植物は光合成を行わないため、花期と果実期のわずかな期間しか地上に姿を現しません。花期や果実期は短く、またサイズも小さいものが多いため、見つけることが非常に困難です。日本は、植物の戸籍調べが世界でも最も進んでいる地域であり、新しく認識される植物は、年に数件しかありません。その中で、光合成をやめた菌従属栄養植物は、正確な分布情報が解明されていない例外的な植物群といえます。そこで末次健司特命講師は、共同研究者とともに、日本国内における菌従属栄養植物の分布の調査と、その分類体系の整理に取り組んでいます。
研究の内容
研究の一環として2015年10月と2016年10月に行った調査において、末次氏の共同研究者である杉本嵩臣氏 (九州大学生物資源環境科学府大学院生) は、石垣島の野底岳と於茂登岳の周辺で、未知の菌従属栄養植物を発見しました。この植物は、植物体全体が赤紫色で、植物体の高さは3cm程度、直径2mmの花をつけます。末次氏が、この植物の形態的特徴を精査した結果、この植物は、ホンゴウソウ科の植物であるものの、単性花(雄花と雌花が別々である)をつけ、花びらの大きさが等しく、雄花の先端に糸状の突起がある点で、日本に分布するホンゴウソウ科のいずれの種とも異なる特徴を持つことがわかりました。
そこで発見場所の地名から「ノソコソウ」と命名しました。また海外の種を含め検討を進めたところ、ソロモン諸島とインドネシアのパプア州でのみ分布が確認されている「Sciaphila corniculata」であることがわかりました。これらの島々から遠く離れた日本で、この植物が発見されたことは驚くべきことです。
発見の意義
菌従属栄養植物は、森の生態系に入り込み、寄生する存在です。このため生態系に余裕があり、資源の余剰分を菌従属栄養植物が使ってしまっても問題のない安定した森林でなければ、菌従属栄養植物が生育することはできません。つまり菌従属栄養植物が存在するという事実は、肉眼では見えませんが、キノコやカビの菌糸の豊かなネットワークが地下に広がっていることを意味しています。かつて生物学者?南方熊楠も、ホンゴウソウをはじめとする光合成をやめた植物が生える場所こそ森の聖域であると述べ、その環境の貴さを訴えました。豊かな森とそこに棲む菌類に支えられた光合成をやめた植物の発見は、野底岳や於茂登岳の周辺に広がる原生林の重要性を改めて示すものです。
用語解説
- ※1: 菌従属栄養植物
- 光合成能力を失い、キノコやカビから養分を奪うようになった植物のこと。ツツジ科、ヒメハギ科、リンドウ科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、タヌキノショクダイ科、ラン科、サクライソウ科、ホンゴウソウ科などが該当し、これまで日本からは約50種が報告されている。
論文情報
- タイトル
- “First Record of the Mycoheterotrophic Plant Sciaphila corniculata from Ishigaki Island, Ryukyu Islands, Japan, with Updated Description of its Morphology, in particular on Stylar Characteristics”
- DOI
- 10.18942/apg.201717
- 著者
- KENJI SUETSUGU, TAKAOMI SUGIMOTO
- 掲載誌
- Acta Phytotaxonomica et Geobotanica