神戸大学内海域環境教育研究センターの川井浩史教授、羽生田岳昭助教、福井県立大学海洋生物資源学科の神谷充伸教授、在野の藻類研究者である柴田健介氏らは、瀬戸内海と東北太平洋沿岸の限られた地域でのみ採集される海藻が新種であることを示しました。和名「ニセクロモズク」と命名の予定です。
この海藻はこれまで、その形態からクロモズク(Sauvageaugloia ikomae)と同定されていました。しかしその培養株が本来のクロモズクから遺伝的に離れていたため、その分類には疑問が持たれていました。
そこで今回、瀬戸内海で採集されたこの海藻を、DNA塩基配列を用いた分子系統学的解析などを用いてクロモズクと比較し、詳しい分析の結果、クロモズクとは別の種であることを結論付けました。
両種は外観がよく似ていますが、ニセクロモズクは亜皮層がよく発達するためクロモズクよりも太くなり、また不規則な小枝をより頻繁に出す傾向があり、形態学的にも区別が可能です。
ニセクロモズクは瀬戸内海のほか、宮城県にも分布していますが、黒潮の影響を受けてより温暖な四国から東北南部にかけての太平洋沿岸からは採集されておらず、分布が遠く離れています。その原因として、氷河期の海況の変化が影響した可能性が考えられています。すなわち、氷河期に南に移動し、四国周辺のレフュジアで生き延びた集団が、氷河期の終了後、再び北へ移動した際、一部が瀬戸内海に残った可能性が示されています。
また、クロモズクはこれまでもともとヨーロッパで記載された Sauvageaugloia 属に属する種として分類されてきましたが、今回の研究で遺伝的に Sauvageaugloia 属からは遠いことが判明しました。今回の新種と合わせ、属レベルの分類の再検討を行う予定です。