理学研究科惑星学専攻の中村昭子准教授らは、フランスのコートダジュール大学/天文台やJAXA宇宙科学研究所等との共同研究により、小惑星帯での典型的な衝突速度での岩石弾丸の衝突によって生じるケイ酸塩のメルトが、鉄ターゲットにできたクレーターを覆って固化することを示しました。
本研究成果は、日本時間8月29日に「Science Advances」(電子ジャーナル) に掲載されました。また、「Space.com」(webニュースサイト) に紹介記事が掲載されました。
ポイント
- 鉄に富む小惑星の表面には、ケイ酸塩や含水鉱物が存在することが示唆されているが、その起源についての研究は進んでいなかった。
- JAXA宇宙科学研究所の超高速衝突実験施設の飛翔体加速装置を用いて、岩石の弾丸を小惑星帯の典型的な天体衝突速度である数キロメートル毎秒で鉄のターゲットに衝突させ、弾丸由来のケイ酸塩のメルトが、鉄ターゲットにできたクレーターを覆うことを明らかにした。
- OHやH2Oを含む天体が鉄に富む小惑星に高速度で衝突しても、表面に固化したケイ酸塩層の中にそれら揮発性物質が残り、波長3μm帯の吸収特性を示す可能性を示した。
研究の背景
最近の鉄隕石の研究から、太陽系の形成後最初の百万年以内に少なからぬ微惑星は地球型惑星のようにその天体内部がコア?マントル?地殻に「分化」し、天体内部がケイ酸塩?金属鉄に分かれたことが示されています。「分化」の際には天体内部は高温になるため、水のような成分は揮発して残っていないと考えられています。
そのような「分化」した小惑星は未だ小惑星帯に残っていると考えられていますが、一部の「分化」した小惑星は、激しい衝突によってマントルが剥ぎ取られ、コアがむき出しになっていることが、地球で発見されている鉄隕石から示されています。それら鉄隕石の宇宙線照射年代計測から、このような破壊は、はるか昔、数億から数十億年前に起こったと考えられています。
ところが、小惑星の可視?近赤外分光観測とレーダーの観測からは、鉄に富む天体 (鉄隕石の供給源となる天体) は、鉄隕石の量や多様性に反してほとんど見つかっておらず、その原因はまだ解き明かされていません。それに加えて、鉄に富むと考えられる小惑星の表面には、ケイ酸塩や含水鉱物が存在することが望遠鏡観測により示唆されていますが、その起源についての研究は進んでいませんでした。
研究の内容
研究チームは、鉄鋼や鉄隕石のターゲットに対して、岩石 (無水?含水) の弾丸を小惑星帯での典型的な衝突速度である秒速数キロメートルで衝突させて、ターゲットに形成されたクレーターを電子顕微鏡で観察し、また、クレーター部分の反射スペクトルを測定しました。
すると、発泡したガラス質の皮膜、あるいは、(油と水の混合物のような) 鉄とケイ酸塩の不混和性液体が固化したものがクレーターを覆っている (図) ことがわかりました。また、反射スペクトルには、OH基やH2Oの存在を示す3μm帯の吸収が見られました。
これらの結果は、鉄に富む小惑星の表面にケイ酸塩?含水鉱物が存在することが自然なことであると示しています。
今後の展開
鉄に富む小惑星は、太陽系の形成初期におこった天体の分化過程を経験した興味深い天体です。今後、衝突条件を変えた実験を行い、惑星間空間の衝突によって鉄に富む天体の表層がどのように進化するのかについて詳しいメカニズムを解明していくことが期待されます。
2026年に、鉄に富む天体と考えられる小惑星 (16) PhycheをNASAが探査することが計画されています。この天体の表面を覆う物質の組成や形態が詳しくわかると期待されます。
論文情報
- タイトル
- “Hypervelocity impacts as a source of deceiving surface signatures on iron-rich asteroids”
- DOI
- 10.1126/sciadv.aav3971
- 著者
- Guy Libourel, Akiko M. Nakamura, Pierre Beck, Sandra Potin, Clément Ganino, Suzanne Jacomet, Ryo Ogawa, Sunao Hasegawa, Patrick Michel
- 掲載誌
- Science Advances