神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻の平田直之助教らの研究グループは、小惑星探査機はやぶさ2のリモートセンシング画像データ解析によって、小惑星リュウグウのクレーター分布を調べ、地表面の歴史の一端を明らかにしました。本研究により、リュウグウの自転が現在より早かった時期が2度あった、あるいは、かなり長期間にわたり継続していた可能性が明らかになりました。
今後本研究成果は、はやぶさ2の画像データ解析における基礎データとしての利用が期待されます。
この論文は11月5日に米国科学雑誌「Icarus」に掲載されました。
ポイント
- 小惑星探査機「はやぶさ2」の送ってきた画像データを解析し、リュウグウ地表面の衝突クレーター※の分布を調べた。
- 衝突クレーターの数密度は、その天体表面の古さを示す指標となる。
- リュウグウのクレーターの数密度は一様ではなく、東側半球はクレーターが多く、西半球は少ないことがわかった。
- 東半球と西半球、それぞれの赤道のふくらみ部分は、まったく違う時代にできたことがわかった。このことから、リュウグウの自転が現在よりずっと早かった時期が2度あったか、かなりの長期間にわたり継続していた可能性が考えられる。
- 本研究成果は、天体の表層進化を知る上で基礎となるデータであり、データベースとして将来の活用が期待される。
研究の背景
JAXAが打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」は小惑星リュウグウで探査を続けており、数多くの画像が得られています。その画像をくわしく観察し解析することで、リュウグウがいかにして誕生し、どんな進化を遂げてきた天体なのかを解明することができます。この研究では、衝突クレーターの分布について調べています。衝突クレーターはより小さな小惑星や彗星が衝突することで形成されます。この衝突する確率は一定の頻度でおきることがわかっているので、衝突クレーターが多い場所はそれだけ長い時間を経た古い地面であることがわかります。そのため、探査された天体の研究においては、クレーターがどこにどのくらい存在しているのかを調べる研究がまず最初に行われます。
研究の内容
研究の手法
はやぶさ2の画像データを解析しました。はやぶさ2にはいくつかの種類のカメラが搭載されていますが、この研究ではONC-Tと呼ばれるカメラの画像データを使いました。ONC-Tは最も視野角が小さく最も高分解能でリュウグウを撮影することができます。ONCチームのこれまでの努力によって、5000枚近いリュウグウの鮮明な画像が得られています。このうち特にクレーターの撮影に好条件な画像をつぶさに調べました。クレーターは円形の窪地が特徴的で、影やステレオ視による目視での観察、形状モデルなどを使い、リュウグウのクレーターを記載していきました (図1?2)。これまで取り組んできた様々な天体のクレーター研究と比較して、リュウグウの場合の難しさは、リュウグウが岩で形成されていることもありクレーターの形があまり鮮明ではなく、クレーターかどうか判断にこまる微妙なケースが多いということです。共同研究者間でも判定に一致しない部分が少しありました。そこで、候補地形を主に4分類することで、あいまいさに重みづけをして論文に反映させました。
続いて、クレーターの厳密な位置と直径も計測しました。クレーターの位置とサイズの計測で最も労力を使う部分はクレーターの同定そのものや測定よりも、その前段階である、リュウグウを撮像したカメラ画像がリュウグウをどこからどのような角度?条件で撮像したのかといった情報を調べたり、正確な小惑星の形状を解析する段階にあります。この作業は平田直之 助教の研究室の所属学生と会津大学の平田成 上級准教授が共同で行いました。実際、クレーター計測を始めて論文が書きあがるまで1週間ほどでしたが、この作業には何か月もかかりました。
その他、リュウグウの絶対的な大きさを決めるためにはLIDAR (レーザ高度計) チームのLIDAR測距データも使われています。運用チームから提供されるリュウグウや探査機の軌道情報も、カメラ位置の高精度化の為に利用されています。このようにプロジェクト全体のさまざまな人々の協力によって、このクレーターの記載?測定がなされました。
研究の結果
リュウグウのクレーター分布は一様ではなく、偶然では説明できない偏りがあることがわかりました。リュウグウでクレーターが一番多い場所は、本初子午線付近から東側半球のあたり、サンドリヨン (シンデレラ) クレーターに近い地域でした。一方で、西側半球側にはクレーターはほとんどないこともわかりました。リュウグウには赤道に沿って一周するようなふくらみがあります。リュウグウのような小惑星は、赤外線の放射によって、自転が暴走加速することがあり、円盤状に引き伸ばされたり、分裂したりすることがわかっています。リュウグウのこの赤道リッジ (高地帯) は、過去にリュウグウの自転が3時間程度だった時代があり、その時に出来たものだと考えられています。今回、クレーター分布を調べることで、その時代は1つではなく、西側半球の赤道のふくらみは比較的新しい時代のもので、本初子午線付近から東側半球のあたりの赤道リッジはそれより昔の時代の構造であることがわかりました。リュウグウの自転が加速していた時期は2度あった、あるいは、そういった時期が何億年にもわたり継続していた可能性が考えられます。
今後の展開
このような衝突クレーター分布は、リュウグウの表層進化に関する様々な研究に利用できるデータベースとなります。例えば、リュウグウのクレーターの深さを調べることで、表面の色が変わる年代を推定する研究や、内部の構造的な堅さを調べる研究などへの応用が期待できます。また将来、似たような小惑星を探査するとき、この結果と比較することで新しい発見が期待できます。
用語解説
- ※ 衝突クレーター
- ごく小さな小惑星や彗星がぶつかることによってできる円形のくぼ地。
論文情報
- タイトル
- “The spatial distribution of impact craters on Ryugu”
- DOI
- 10.1016/j.icarus.2019.113527
- 著者
- Naoyuki Hirata, Tomokatsu Morota, Yuichiro Cho, Masanori Kanamaru, Sei-ichiro Watanabe, Seiji Sugita, Naru Hirata, Yukio Yamamoto, Rina Noguchi, Yuri Shimaki, Eri Tatsumi, Kazuo Yoshioka, Hirotaka Sawada, Yasuhiro Yokota, Naoya Sakatani, Masahiko Hayakawa, Moe Matsuoka, Rie Honda, Shingo Kameda, Manabu Yamada, Toru Kouyama, Hidehiko Suzuki, Chikatoshi Honda, Kazunori Ogawa, Yuichi Tsuda, Makoto Yoshikawa, Takanao Saiki, Satoshi Tanaka, Fuyuto Terui, Satoru Nakazawa, Shota Kikuchi, Tomohiro Yamaguchi, Naoko Ogawa, Go Ono, Yuya Mimasu, Kent Yoshikawa, Tadateru Takahashi, Yuto Takei, Atsushi Fujii, Hiroshi Takeuchi, Tatsuaki Okada, Kei Shirai, Yu-ichi Iijima
- 掲載誌
- Icarus