神戸大学大学院医学研究科病理病態学分野の林祥剛教授とYoudiil Ophinni研究員、理化学研究所生命医科学研究センターゲノム免疫生物学理研白眉研究チームNicholas F. Parrishチームリーダー、およびパヴィア大学のUmberto Palatini氏から成る共同グループは、“piRNA (小分子RNA)”と呼ばれるさまざまなウイルス由来のRNA配列が、動物、植物、菌類などの真核生物に抗ウイルス自然免疫をもたらすことを示す知見に関して、文献検討を行いました。その結果、このpiRNAがPiwiタンパク質と結合して遺伝性の抗ウイルス免疫として機能するという仮説を提唱しました。

本論文は、Cell Press出版グループでトップランクのレビュー誌である「Trends in Immunology」11月号に掲載されました。 

ポイント

  • 動物、植物、菌類など真核生物のゲノム(遺伝情報)には、さまざまなウイルスに由来するDNA配列が組み込まれている。
  • ウイルス由来のDNA配列は、対応するウイルスから宿主を守ると考えられていたものの、その正確なメカニズムは不明であった。しかし最近の研究で、このメカニズムはpiRNAを介したものであることが示されている。
  • piRNAは、原核生物のCRISPR RNAと同じ方法で、真核生物に遺伝性の抗ウイルス免疫をもたらすと考えられる。

研究の背景

真核生物ゲノムの一部は、内在性ウイルス要素 (EVE) と呼ばれるウイルス由来の配列で構成されています。EVEは、ヒトでは、全ゲノムDNAの約8%にも及ぶと考えられています。最初は機能の不明な“ジャンクDNA”であると考えられていましたが、現在では、EVEに由来するタンパク質が多くの機能において重要な役割を果たすことが認識されています。EVEは対応するウイルスから宿主を守ると長い間考えられてきたものの、その正確なメカニズムは不明で、免疫におけるその役割はほとんど知られていませんでした。しかし最近の研究では、EVEがpiRNAの作用により対応するウイルスに対するRNA媒介免疫を引き起こす可能性があることが示されています。

piRNAは2006年にキイロショウジョウバエで初めて発見されました。piRNAは、24~31ヌクレオチド (nt)※1であり、Piwiタンパク質と結合し、標的RNAまたはDNAを不活性化するRNAのクラスです。piRNA-Piwi複合体は、真核生物ゲノム内に豊富に見られる動く遺伝子である転移因子 (TE) を標的にして不活性化に働いているとされています。

piRNAは、真核生物ゲノム内で広く見られるpiRNAクラスターと呼ばれる特定の領域から転写されます。piRNA前駆体は長いですが、Piwiファミリーによって処理され、Piwiに結合した成熟piRNAを生成します。piRNA-PIWI複合体は、細胞質の標的RNAを切断したり、ヒストン修飾またはDNAメチル化を行って核のDNAを標的にすることが可能です。

研究の内容

本レビュー論文では、著者らは過去5年以内の研究結果をまとめて次の仮説を立てました。EVE由来のpiRNA-Piwiは、真核生物において遺伝性の配列特異的抗ウイルス免疫として機能する可能性があります。

この仮説を裏付ける証拠の1つは、多くの節足動物と哺乳類のpiRNAクラスター内にEVEが豊富に認められることです。内在性ボルナウイルスと呼ばれるEVEは、ヒトを含む多くの哺乳類のpiRNAクラスターに多く存在しており、ボルナウイルス※2のアンチセンス※3であるpiRNAを生成することが分かっています。

EVEはまた、多くの節足動物のpiRNAクラスター内で濃縮され、対応するアルボウイルス※4RNAに対するアンチセンスpiRNAを生成することが分かっています。

最も有力な証拠となるのは、鳥類白血病ウイルス (ALV) の水平方向の感染の広がりがALV由来のEVEによって抑制されることが鶏で示されていることです。ALV EVEは、ALVを標的とするpiRNAも生成します。コアラにも同様のメカニズムが観察され、コアラレトロウイルス※5のEVE遺伝子座は、外在性ウイルスを標的とし、抑制すると考えられるpiRNAを生成します。

著者らは、宿主ゲノムに組み込まれたウイルス配列は、水平方向に広げられ、子孫に継承されるEVEが作成されると仮定しました。piRNAクラスター内にあるEVEは、感染しているウイルスを標的とし、抑制するpiRNAを生成します。さらに、著者らは、図に見られるように、真核生物におけるこのpiRNA-Piwi抗ウイルス免疫と原核生物※6におけるCRISPR-Cas※7とを比較検討しました。

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結論

研究のレビューに基づいて、著者らは、EVE由来のpiRNAが誘導する遺伝子の抑制は、これまで知られていなかった真核生物のウイルスに対する自然免疫獲得過程を表すのではないかと仮定しました。そのメカニズムは、原核生物のCRISPR-Casシステムとよく似ています。ただし、このメカニズムを直接示す実験データは少なく、そのためこの分野の研究は優先度が高いと思われます。昨今の科学研究における遺伝子編集の技術発達や需要を考慮しても、著者らは、ウイルスもしくはトランスポゾン※8による遺伝子導入やpiRNAを介した遺伝子編集の結果をさらに解明することが必要であると考えます。

用語解説

※1 ヌクレオチド

DNAおよびRNAを構成する単位。

※2 ボルナウイルス

人獣共通感染症を引き起こす原因ウイルス。主に馬と羊に対し脳脊髄炎を引き起こすことで知られている。神経組織の細胞核に持続感染する。

※3 アンチセンス

特定のDNAやRNAなどに対して相補的であること。アンチセンスRNAは、タンパク質をコードしないノンコーディングRNA (ncRNA) の一種で、標的RNAの働きを阻害する。

※4 アルボウイルス

人獣共通感染症を引き起こす原因ウイルスの中で、蚊やダニなどによって媒介されるウイルスの総称。

※5 コアラレトロウイルス

コアラに対し白血病やリンパ腫などを引き起こすことで知られている内在性のウイルス。

※6 原核生物

生物進化のごく初期に出現した生物群。細胞内に核を持たず、DNAがほぼむき出しの状態で細胞内に存在し、細菌類などの単細胞生物がこれに該当する。

※7 CRISPR-Cas

ウイルスなどに対する獲得免疫システムを構成する、ゲノム内の反復配列 (CRISPR) およびその周辺に存在する遺伝子 (cas)。

※8 トランスポゾン

ゲノム上を移動する遺伝子。DNAの断片を切り出し、別の場所に挿入することで移動する。

論文情報

タイトル

piRNA-Guided CRISPR-like Immunity in Eukaryotes

DOI

10.1016/j.it.2019.09.003

著者

Youdiil Ophinni1, Umberto Palatini2, Yoshitake Hayashi1, Nicholas F. Parrish3, 4

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  1. Division of Molecular Medicine and Medical Genetics, Department of Pathology, Kobe University Graduate School of Medicine
  2. Department of Biology and Biotechnology, University of Pavia
  3. Genome Immunobiology RIKEN Hakubi Research Team, Cluster for Pioneering Research, RIKEN
  4. Center for Integrative Medical Sciences, RIKEN

掲載誌

Trends in Immunology

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研究者

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