東京大学大気海洋研究所の楢崎友子特別研究員、佐藤克文教授、青木かがり助教、神戸大学大学院海事科学研究科の岩田高志助教らの研究グループは、さまざまな種類の海洋大型動物が水面や水中で旋回行動をしている (クルクル回る) ことを発見しました。今後、旋回行動の機能を採餌、社会行動、ナビゲーションなどの側面から探っていくことで、未だ多くの謎に包まれた海洋動物の行動や生態に新たな知見をもたらす可能性が期待されます。
この研究成果は、3月18日に、iScience にオンライン掲載されました。
ポイント
- 幅広い分類群の大型海洋動物 (サメ、ウミガメ、ペンギン、オットセイ、クジラ) が旋回行動をしている (クルクル回る) ことが明らかとなった
- 旋回行動は様々な状況下 (摂餌海域、繁殖海域、産卵場への移動中など) で確認された
- どの動物も比較的安定した角速度で連続的に旋回するという共通の特徴がみられた
研究の背景
動物行動学?生態学の分野では、動物の動きを調べることで、動物の動きの内的要因やバイオメカニズム、ナビゲーション能力などを明らかにしてきました。行動追跡が難しい大型海洋動物の場合、これまで主に衛星追跡手法による水平移動経路が研究に用いられてきましたが、近年のバイオロギング技術の発展により、三次元的に広がる海中を自由に遊泳する海洋動物の行動を秒単位、メートル単位の時空間スケールで把握することが可能になりました。これにより、従来の手法では見逃されていた詳細な時空間スケールでおこる不思議な旋回行動を発見するに至りました。
研究の内容
地磁気*1?加速度データロガーを用いて、大型海洋動物 (イタチザメ、ジンベイザメ、アオウミガメ、キングペンギン、ナンキョクオットセイ、アカボウクジラ) の潜水行動および時々刻々の頭の向き (遊泳方向) を調べたところ、全ての種において、比較的安定した角速度で連続的に旋回する行動が確認されました (図1) 。例えば、摂餌海域を遊泳するイタチザメは様々な深度 (0.8 – 129.3 m) で繰り返し旋回行動がみられました。いっぽう、潜水中に摂餌を行うキングペンギンとナンキョクオットセイの旋回行動は、いずれも水面付近で確認されており、摂餌との関連が低いと考えられます。また、帰巣実験中 (産卵場の砂浜で捕獲した個体を海へ移送し、元の砂浜に戻るまでの経路を調べる実験) のアオウミガメにおいては、まるで機械のように一定の周期で最大76回転 (旋回周期 = 19.9秒) も旋回し続ける行動が確認されました (図2) 。
ウミガメの旋回行動は全て目的地である産卵場の近くで観察され、旋回行動後に目的地への正しい方向へ進んでいることから、旋回することで進むべき方向を調べている可能性が示唆されました。回遊を行う海洋動物は地磁気コンパスを持つことが知られていますが、彼らがどのように地磁気を感知しているかは分かっていません。全方位を向くことのできる旋回行動は、地磁気を感知するための行動なのかもしれません。
今後の展開
今回初めて確認された旋回行動の機能は不明ですが、幅広い分類群の大型海洋動物に共通して見られていることから、共通の機能を持つ可能性があります。潜水艦も旋回しながら潜降することで地磁気の精密測定を行うことが知られており、同じ目的でなされる行動の進化的収斂なのかもしれません。今後様々なアプローチで、旋回行動の機能に関する仮説を検証していくことで、海洋動物の行動や生態の謎を解き明かすきっかけになるかもしれません。
用語解説
- *1 地磁気
- 地球上に存在する磁場のこと。方位磁石が北を向くのは、北極付近にS極、南極付近にN極があるような磁場があるため。動物の中には地磁気を感知して方角や現在地を把握する能力を持つものもいると考えられている。
論文情報
- タイトル
- “Similar circling movements observed across marine megafauna taxa”
- DOI
- 10.1016/j.isci.2021.102221
- 著者
- Tomoko Narazaki, Itsumi Nakamura, Kagari Aoki, Takashi Iwata, Kozue Shiomi, Paolo Luschi, Hiroyuki Suganuma, Carl G Meyer, Rui Matsumoto, Charles A Bost, Yves Handrich, Masao Amano, Ryosuke Okamoto, Kyoichi Mori, Stephane Ciccione, Jerome Bourjea, Katsufumi Sato
- 掲載誌
- iScience