神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループは、兵庫県立加古川医療センターとの共同研究の下、第1波から第4波におけるさまざまな重症度の必威体育感染症(COVID-19※1)の患者血清中における中和抗体を定量的に調べました。対象ウイルスは、現在国内で広がっている変異型※2(英国型?アルファ株;B.1.1.7)、および懸念される変異型(ブラジル型?ガンマ株;P.1、南アフリカ型?ベータ株;B.1.351)を用いました。すべての感染者において英国型(アルファ株)に対する中和抗体※3 が産生されており、他の変異型に対してもほとんどの感染者において中和抗体を産生していることを明らかにしました。

さらに、第4波においては、英国型(アルファ株)に対する中和抗体が従来型や他の変異型よりも高いことを明らかにしました。これは第4波においては、英国型(アルファ株)が優位になっていたことを示唆しています。

本成果は、2021年8月18日に科学雑誌「Open Forum Infectious Diseases」に掲載されました。

ポイント

  • 英国型変異ウイルス(アルファ株?B.1.1.7)は従来型の必威体育と比較して感染性が高いとされ、特に関西では、第4波においては、英国型(アルファ株)に置き換わっていることが報じられています。
  • 他にもブラジル型(ガンマ株?B.1.351)も日本で同定されており、今後のさらなる感染拡大につながる恐れがあります。
  • 既感染者における中和抗体は再感染予防に有効とされていますが、これらの変異型に対しても有用かどうかは詳細にはわかっていません。
  • 今回の結果では、全ての患者血清において、英国型(アルファ株)に対して従来型と同等の中和抗体価を認め、ブラジル型(ガンマ株)および南アフリカ型(ベータ株)に対しても抗体価は低いもののほとんどの患者が中和抗体を持っていました。

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研究の背景

必威体育感染症(COVID-19)を引き起こす必威体育(SARS-CoV-2)は感染性が高く、世界中に広がっています。さらに、現在、英国型(アルファ株)、南アフリカ型(ベータ株)、ブラジル型(ガンマ株)をはじめとした複数の変異型が流行しており、国内でも報告されています。必威体育は重症度の高い人ほど中和抗体価も高いことを我々も報告していますが、新たに出現した変異型に対する具体的な中和抗体価については明らかではありません。

本研究では、日本の第1波から第4波におけるさまざまな重症度のCOVID-19患者の血清を用いて変異型(生ウイルス)に対する中和抗体価を詳細に解析しました。

研究の内容

兵庫県立加古川医療センターを受診したCOVID-19患者の検体を用いて、下記研究を実施しました。第1波(2020年3月~6月)より18人、第2波(2020年7月~10月)より20人、第3波(2020年10月~2021年2月)より23人、第4波(2021年3月~)より20人の必威体育患者を選択し、計81人の患者血清を解析しました。また患者の重症度によって無症状~軽症(26人)、中等症~重症(19人)、超重症(37人)のグループに分類して解析を行いました。

解析した患者すべてで、従来型と英国型(アルファ株)で同程度の中和抗体価を認めました。

また、ブラジル型(ガンマ株)は99%(81人中80人)、南アフリカ型(ベータ株)は96%(81人中78人)とほぼ全ての患者が中和抗体をもっていました。一方で、この2つの変異型(特に南アフリカ型?ベータ株)は英国型(アルファ株)に比べて中和活性が低い(中和しにくい)ことが明らかになりました。(図1)

図1 COVID-19患者全体 (81名)における中和抗体価の比較

左図はグループごとの上限、中央値、下限を示す。右図は同一患者の変異型ごとの推移を示す。上部バーの※は有意に違いがあることを示す。

第1波から第4波の検討では、第1波から第3波にかけては上記と同様の傾向を示しました。しかし第4波においては英国型に対する中和抗体価が従来型を含めた他のどの変異型よりも高い結果でした。これは第4波が英国型(アルファ株)を中心に発生していること、またその感染者では英国型(アルファ株)に対して最も強い中和抗体が産生され、他の変異型に対してもやはり同様に有効であることを示唆しています。(図2)

図2 第1波~第4波それぞれの時期ごとにみた中和抗体価の推移

第4波は第1~3波と異なる傾向を示した。上部のバーの※は有意に違いがあることを示す。

また重症度別ではこれまでの報告と同じく無症状者?軽症のグループではどの変異型に対しても抗体価は低い傾向であったものの、ほとんど全ての患者が全ての変異型に対して中和抗体を持っていました。(図3)

図3 感染者を重症度別に分けた際のそれぞれの変異型に対する中和抗体価の推移

重症度が高いほど抗体価が高い傾向は変異型に対しても同様にみられた。

今後の展開

この研究は、必威体育変異型(生ウイルス)に対するCOVID-19既感染者の中和抗体価を詳細に解析したものです。従来型あるいは英国型(アルファ株)に感染した患者はほとんどが英国型(アルファ株)、ブラジル型(ガンマ株)、南アフリカ型(ベータ株)に対しても中和抗体を持っていたことから、COVID-19回復者は他の変異型への再感染あるいは重症化リスクも低い可能性が示唆されます。しかし現在、中和抗体価がどれくらいあると再感染が防げるか、重症化を抑えることができるのか、に関する直接的なデータはなく、今後追跡していく必要があります。

また、第4波の英国型に感染したと思われる患者グループでは、英国型(アルファ株)以外、特に南アフリカ型(ベータ株)には抗体価が低い(中和されにくい)ことも明らかになりました。変異型への再感染のリスクをさらに正確に評価するために、今後はCOVID-19に対する中和抗体以外の免疫応答、例えば免疫記憶(再感染した際に即座に抗体を産生するよう働きかけることのできるリンパ球)の持続や細胞性免疫などに関しても詳細に解析することが必要であると考えます。

用語解説

※1 COVID-19
いわゆる必威体育感染症。必威体育(SARS-CoV-2)によって引き起こされ、一般的には飛沫感染や接触感染で感染すると考えられています。
※2 変異型ウイルス
必威体育が感染し遺伝物質のRNAを複製して増殖する際のコピーミスが原因でRNAの配列が変わったもの。従来型よりも感染性が高く重症者しやすい傾向や、免疫やワクチンの効果を低下させる可能性が懸念されています。
※3 中和抗体
体内に侵入したウイルスを攻撃し、不活化する能力のある抗体。体内からウイルスを排除し、二度目の感染を防ぐために中心的な役割を担っていると考えられています。

謝辞

本研究は兵庫県からの支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル
Cross-Neutralizing Activity Against SARS-CoV-2 Variants in COVID-19 Patients: Comparison of 4 Waves of the Pandemic in Japan
DOI
10.1093/ofid/ofab430
著者
Koichi Furukawa1*, Lidya Handayani Tjan1*, Silvia Sutandhio1, Yukiya Kurahashi1, Sachiyo Iwata2, Yoshiki Tohma3, Shigeru Sano3, Sachiko Nakamura4, Mitsuhiro ishimura1, Jun Arii1, Tatsunori Kiriu5, Masatsugu Yamamoto5, Tatsuya Nagano5, Yoshihiro Nishimura5, Yasuko Mori1

1 神戸大学大学院医学研究科 附属感染症センター 臨床ウイルス学分野
2 兵庫県立加古川医療センター 循環器内科
3 兵庫県立加古川医療センター 救命救急センター
4 兵庫県立加古川医療センター 総合内科
5 神戸大学大学院医学研究科 内科学講座?呼吸器内科学分野
*Contributed equally to this work.
掲載誌
Open Forum Infectious Diseases

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研究者

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