京都大学複合原子力科学研究所 奥地拓生教授、梅田悠平 同日本学術振興会特別研究員、神戸大学大学院理学研究科 瀬戸雄介講師、海洋研究開発機構高知コア研究所 富岡尚敬主任研究員、理化学研究所放射光科学研究センター 宮西宏併研究員、高輝度光科学研究センター 籔内俊毅主幹研究員、大阪大学大学院工学研究科 尾崎典雅准教授らの共同研究グループは、太陽系の天体衝突が記録された結晶の原子配列が生成する過程を、世界で初めて実験で計測しました。

今から46億年前に、誕生したばかりの太陽の周囲で無数の小天体が衝突と合体を繰り返した結果として地球型の惑星が形成されました。これらの小天体では衝撃圧縮注1 により構成物質の変化が起きたと考えられており、その痕跡である高密度の原子配列が隕石注2 を構成する結晶に残されました。本研究では、この高密度の配列のできかたを超高速のコマ送り動画として計測しました。フォーカスしたレーザーパルスを結晶に打ち込んで衝撃圧縮を引き起こし、その直後に同じ場所にフォーカスしたフェムト秒X線パルス注3 を照射して、変わりつつある原子配列をX線回折法で記録しました。このような短時間の圧縮において、その開始からわずか1億分の1秒後に高密度の配列が生成することがわかりました。この速さは従来の見解を覆すものです。小天体の衝突においても短時間の衝撃圧縮が頻繁に起きているため、その記録が隕石や小惑星サンプルリターン試料に残された可能性は高いといえます。それらを丁寧に探してゆけば、地球の誕生に至る初期太陽系の歴史を具体的に描けるでしょう。

本研究成果は、2021年 7月14日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

背景

今から46億年前に、誕生したばかりの太陽の周囲において無数の小天体が互いに衝突と合体を繰り返し、少しずつ成長した結果として、地球型の惑星や小惑星が形成されました (図1)。このとき小天体の表層や内部では、衝突が引き起こす衝撃圧縮注1 によって構成物質の状態の変化が起きたと考えられてきました。このような小天体の物質の変化の痕跡は、それが集まってできた地球の岩石にはもはや残されていません。それは地球ができる過程で非常に高い温度を経験し (図1)、痕跡がリセットされたことが理由です。しかし地球を離れてみると状況は異なります。たとえば多くの小惑星には、昔の衝突でできたクレーターの地形が未だに残存しており、そのあたりの物質には衝撃圧縮の痕跡が残っているであろうと考えられてきました。

図1.誕生したばかりの太陽系での地球の成長の様子

小惑星から飛来したと考えられる隕石注2 の一部には、そこに含まれる結晶が、高い密度へと永久的に変化しているものがあります。たとえばカンラン石[α-(Mg,Fe)2SiO4]という名前の結晶の一部は、リングウッダイト[γ-(Mg,Fe)2SiO4]という名前の、同じ化学成分ですが原子配列の異なる高い密度の結晶に変わっています。そのリングウッダイトの一部が、ポワリエライト[ε-(Mg,Fe)2SiO4]というさらに別の原子配列に変わっている場合もあります注2。これらの原子配列は勝手に出来上がることはなく、その起源は不明でした。一方でこれらを含む隕石はいずれも大きく変形をしており、衝撃圧縮とは深い関わりがあるのではないかと推察されていました。もし地上での衝撃圧縮の実験によって、これらの高密度の原子配列をつくることができれば、その生成の状況を詳しく調べることで、初期太陽系における衝突の圧力 (衝突速度に依存) や衝突の継続時間 (天体の大きさに依存) に関する情報を得ることが可能になります。望遠鏡や惑星探査機の活躍によって読み解かれてきた初期太陽系の姿に対して、新しい方法で迫ることができるわけです。

研究手法?成果

京都大学複合原子力科学研究所を中心とする研究グループは、このような着想のもとで、カンラン石の原子の配列が衝撃圧縮のときにどのように変化するのかをX線自由電子レーザー施設SACLA注4 を用いて計測しました (図2)。まず、フォーカスした強いレーザーパルスを地球で合成したカンラン石の単結晶の試料に打ち込むことによって衝撃圧縮の状態を作り出し、60~100 万気圧の強い圧力を結晶内に発生させました。そこにさらにフォーカスしたフェムト秒X線パルス注3 を重ねて照射してX線回折の計測を行うことで、変化中の原子の配列を捉えました。たくさんの同じ結晶を用意して、それぞれを個別にレーザーで圧縮しながらX線を照射する時間を少しずつずらしていくことで、変化の様子をコマ送りの動画として記録します。フェムト秒X線パルスは原子の配列が変わる速さよりも充分に短いために、各コマがにじむことはなく、配列の変化を正確に追うことができます。その結果、カンラン石からリングウッダイトへの原子の再配列と高密度化を捉え、それが衝撃圧縮の開始から1億分の1秒というごく短い時間で進むことを、世界で初めて確認しました。

図2.地上の天体衝突実験で捉えた原子配列の変化

波及効果、今後の予定

地球や惑星をつくる結晶のほとんどは金属の酸化物の一種であり、酸素イオンと金属イオンの間に強く切れにくい化学結合が存在しています。結晶全体にわたる結合の切断と再形成が必要な酸化物の原子再配列の現象が、今回のようにごく短い時間で起こる場合があることは、従来の見解を覆す発見でした。その一方で、短い時間の衝撃圧縮は、メートルサイズの小惑星などの小さな天体の衝突によって起こる現象です。その頻度は高く、短い衝撃圧縮で生成した高密度の結晶の記録が多数の隕石や小惑星サンプルリターン試料に残されている可能性は高いといえます。それらを今後丁寧に探してゆけば、地球の誕生に至る太陽系の先史の様子を具体的に描くことが可能になるでしょう。

さきに述べたポワリエライトのように、隕石からは多種多様な高密度の結晶が近年次々に発見されています。それぞれの生成の条件は今回のリングウッダイトとは異なるはずであり、その条件の多様さをコマ送り動画の実験法で個別に確認することで、天体衝突の状況をさらに詳しく決定することが可能になるでしょう。実は今回の実験法は、あらゆる固体物質の原子再配列の研究への応用が可能なものです。本研究グループは、惑星を構成する結晶の世界を離れた、各種の物質や材料に対しても同様の研究も進めています。今回の成功により、たとえばセラミックスのような有用な材料においても、コマ送り動画を記録する実験法が特徴のある状態を作り出して捉えるために有効なことを確認しています。

研究プロジェクトについて

本研究の一部はJSPS科研費 (課題番号20K20947, 20H01965, 17H01172, 16H02246)、文部科学省X線自由電子レーザー重点戦略研究課題「XFELとパワーレーザーによる新極限物質材料の探索」、光?量子飛躍フラッグシッププログラム (Q-LEAP) JPMXS0118067246、の助成を受けて行われました。

用語解説

注1 衝撃圧縮
衝突によって物質がほぼ瞬間的に圧縮される現象です。衝突が生む衝撃波が物質中を高速で通過する際に、圧力の急速な上下が起こり、それをきっかけに物質中の原子配列が変化する可能性があります。衝撃圧縮現象は地上の実験でつくりだせますが、その間の原子配列の変化を捉えるためには、物質が壊れて飛び散るまでの一瞬の間に、それを計測する方法が必要です。本研究では、光のレーザーとX線自由電子レーザー(XFEL)を組み合せて使うことで、この課題を解決しました。
注2 隕石
地球外を起源とする固体の物質が比較的最近に地球に落下して回収された岩石です。太陽系の誕生直後に既に存在していた小天体の断片である場合も多く、その研究によって当時の状況を調べることができます。本研究を行った富岡と奥地を含む海洋研究開発機構などの研究グループは、天体衝突の条件を記録する結晶の重要な新種を発見して、それを「ポワリエライト」と命名しています (京都大学プレスリリース、2021年1月25日)。
注3 フェムト秒X線パルス
フェムト秒は1千兆分の1秒であり、その桁の時間幅を持つごく短いX線のパルスのことです。非常に強いX線であり、1回の照射によって物質中の原子の配列を記録することができます。
注4 X線自由電子レーザー施設SACLA
理化学研究所と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名されました。SACLAでは、2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が行われています。諸外国と比べて数分の一というコンパクトな施設の規模にもかかわらず、0.1 nm以下という世界最短波長クラスのレーザーの生成能力を持ちます。

論文情報

タイトル
Ultrafast olivine-ringwoodite transformation during shock compression
(衝撃圧縮によるカンラン石からリングウッダイトへの超高速構造相転移)
DOI
10.1038/s41467-021-24633-4
著者
Takuo Okuchi, Yusuke Seto, Naotaka Tomioka, Takeshi Matsuoka, Bruno Albertazzi, Nicholas J. Hartley, Yuichi Inubushi, Kento Katagiri, Ryosuke Kodama, Tatiana A. Pikuz, Narangoo Purevjav, Kohei Miyanishi, Tomoko Sato, Toshimori Sekine, Keiichi Sueda, Kazuo A. Tanaka, Yoshinori Tange, Tadashi Togashi, Yuhei Umeda, Toshiki Yabuuchi, Makina Yabashi, and Norimasa Ozaki
掲載誌
Nature Communications

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研究者