神戸大学大学院農学研究科の石井弘明准教授ら研究グループと住友林業株式会社(以下、住友林業)は、共同で、日本国内の緑化樹種9種について、高温下での生理的反応を明らかにしました。
本研究の目的は都市緑化樹種が高温環境にどれだけ耐えられるかを解明し、都市の温暖化に適応した緑化を推進することで、今後、本研究成果が脱炭素社会への実現に貢献していくことが期待されます。
本研究結果は5月27日にスイスの国際科学雑誌「TREES」に掲載されました。
ポイント
- 将来予測される温暖化した都市環境においても持続可能な、高温への耐性が高く、高温条件に順応できる植物の研究が必要である
- 国内の都市緑化樹9種を対象に、高温耐性および高温条件への順応を種間で比較した
- 暖温帯、亜熱帯などの生息域と高温に対する耐性?順応性は無関係である可能性を示唆した
研究の背景
2019年に環境省が公開した「2100年 未来の天気予報」によると、このまま有効な対策を取らずに地球規模の温暖化が進行した場合、2100年夏、国内の各都市で東京の最高気温は摂氏40℃を超えると予測されています。気候変動対策として脱炭素社会の実現は急務であり、同時にヒートアイランド現象の緩和、生物多様性の保全の観点から、健全な緑を確保する必要があり、植物の温暖化適応策が大きな課題となっています。
都市の緑は、ヒートアイランド現象による気温上昇や集中豪雨による洪水を緩和するなど、私たちの生活に欠かせない環境調節?防災機能を担っています。温暖化の影響で植物が衰退すれば、これらの機能は損なわれてしまいます。この機能を持続させるためには、高温への耐性が高く、高温条件に順応できる植物を選択?植栽する必要があります。
研究の内容
本研究では日本の都市緑化樹9種を対象に、高温への耐性および高温条件に対する光合成の順応性を種間で比較しました。
実験には、常緑高木であるタブノキとシラカシ、落葉高木であるケヤキとモミジバフウ、常緑中高木であるヤマモモとシマトネリコ、落葉中高木であるハナミズキ、常緑低木であるネズミモチと外来種のトウネズミモチを用いました。寒い地域(北海道紋別市)と暖かい地域(茨城県つくば市)で9種の苗木を育成し、温度との反応性を比較した試験結果と、温暖化を想定し加温した温室内で生育した試験(写真)の2パターンの試験結果から考察を行いました。ビニールハウスへは5月から苗木を入れて、日中は45℃を超える高温状態で9月まで育て、実験に使用しました。
試験に用いた樹種の中で、ヤマモモとシラカシの光合成能力は高温でも低下せず、また加温で育成することにより光合成能力はさらに上昇しました。つまり、高温への耐性が高いとともに高温環境に良く順応したといえます。その一方で、生息域が暖温帯から亜熱帯であるタブノキは高温条件に対して順応しませんでした。これは生息域と高温に対する耐性?順応性は無関係である可能性を示唆したものです。
本研究から、生息域にとらわれず樹種ごとの高温への耐性を検証する重要性が明らかになりました。
今後の展開
住友林業と神戸大学は、温暖化という地球規模の課題解決に向け、2019年から共同研究をしています。
神戸大学大学院農学研究科では、熱ストレスに対する光合成や水分移動など植物の生理的な反応を詳細に分析しています。住友林業は筑波研究所で本共同研究により得た知見から持続可能な都市の緑の育成方法を研究しています。同研究所は「木」や「緑」のもつ機能や特性、都市緑化、国内外の樹木の生産効率を高める育種?育苗?育林技術の研究等、研究技術開発を通じて木の可能性を追求し、木の価値を高めることに注力しています。両者は環境変動が顕著となる今後を見据え、更に多くの都市緑化樹種の高温環境への応答反応を検証し続けます。
住友林業の取り組み
住友林業は創業350周年を迎える2041年を目標に、街を森にかえる「環境木化都市」の実現をめざす研究技術開発構想であるW350計画を推進しています。事業活動で生み出す「経済的価値」に加えて、温室効果ガス排出の抑制、生物多様性の保全、労働安全や雇用確保など「環境的価値」と「社会的価値」からなる「公益的価値」を高める経営に取り組み、SDGs達成、脱炭素社会への実現に貢献していきます。
論文情報
タイトル
“ Tolerance and acclimation of photosynthesis of nine urban tree species to warmer growing conditions ”
DOI
10.1007/s00468-021-02119-6
著者
Hara Chinatsu, Inoue Sumihiro, Ishii H. Roaki, Okabe Momoko, Nakagaki Masaya, Kobayashi Hajime
掲載誌
Trees: Structure and Function