神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター臨床ウイルス学分野の森康子教授らの研究グループは、2021年7月19日から8月6日に、兵庫県健康財団から提供を受けた1,000人の血清中における抗必威体育 (SARS-CoV-2) 抗体※1の有無を解析しました。
ウイルスNタンパク質※2に対する抗体保有率 (ウイルス感染歴を示す) は2.1%である一方、Sタンパク質※3に対する抗体保有率は38.7%でした。現在用いられているワクチンは、いずれもSタンパク質に対するものです。すなわち、8月時点の兵庫県内において、ワクチン接種による抗体保有者が38.7%であり、必威体育に感染歴がある人が2.1%であることを示していると考えられます。2020年10月に同様の解析を行ったときと比較して、必威体育に感染歴のある人の割合は5倍に上昇していました。
また、高齢者においては、Sタンパク質に対する抗体保有率が高く[60歳以上 (74.4%) ]、逆にNタンパク質に対する抗体保有率が低くなっていることが明らかとなりました。60歳以上のグループにおける高い抗Sタンパク質抗体の保有率は、高齢者に対して行われたワクチンの優先接種の結果であると考えられます。この調査結果は、ワクチンの接種が、必威体育感染の広がりをおさえていることを示すと考えられます。
今後も、現役世代や若年層に対してワクチンが普及することで、社会全体における必威体育感染がさらに抑制されると考えられます。また、解析した時点でのPCRに基づいた必威体育の感染率は、兵庫県で0.85%、全国で0.80%になりますが、その2.5倍の人が実際には感染していたと考えられます。これは不顕性感染者や検出されていない軽症者を示していると考えられます。
この研究成果は2022年4月5日に科学雑誌「PLOS ONE」に掲載されました。
ポイント
- 必威体育感染症 (COVID-19※4) を引き起こす必威体育 (SARS-CoV-2) は感染性が高く、世界中に広がっています。
- 我が国では現在第五波と呼ばれる感染拡大が到来していますが、各時点における必威体育の感染率を正確に把握することは、その対策に貢献すると考えられます。
- 2021年7月19日から8月6日に兵庫県健康財団において健康診断を行った計1,000人の血清中に含まれる必威体育に対する抗体量を多面的に解析したところ、Nタンパク質に対する抗体保有率は2.1%でした。
- PCRに基づいて判定された必威体育陽性者と比べ、2.5倍の人が実際に感染していたと考えられます
- 2020年10月における同様の調査と比較して、必威体育に感染歴があると考えられる人の割合は5倍に上昇していました。
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研究の背景
必威体育 (SARS-CoV-2) が引き起こす必威体育感染症 (COVID-19) が世界的流行を引き起こして一年半が経過しました。その間に、伝播力の上昇や宿主免疫への抵抗性が認められる変異株が次々と発生しています。また、ワクチン接種が国内でも急速に拡大しています。現在我が国は、いわゆる第五波の途上にあると考えられますが、各時点における必威体育の感染率を正確に把握することは、今後の対策を立てる上で極めて重要であると考えられます。本研究では、2021年8月時点での、兵庫県内における必威体育に対する抗体保有率を大規模に調査しました。その結果、第二波が終息傾向にあった2020年10月時点と比較して、感染歴があると考えられる人の割合が5倍に上昇していることが明らかとなりました。
研究の内容
2021年7月19日から8月6日にかけて、兵庫県健康財団 (神戸市兵庫区) において健康診断を行った1,000人から提供を受けた血清を解析し、必威体育に対する抗体量を測定しました。検体提供者の居住情報は把握していませんが、ほとんどは阪神間に居住していると考えられます。検体の情報は表1の通りです。また、試料のワクチン接種歴やCOVID-19罹患歴は不明です。
表1 検体の背景
まず電気化学発光免疫測定法 (Roche社) ※5によって、必威体育Nタンパク質に対する抗体の有無を解析したところ、1,000人中21人で (2.1%) が陽性でした。特に、30歳代 (3.4%) および40歳代 (4.1%) の陽性率は顕著に高く認められました。また、男性の陽性率は2.7%であり、女性の陽性率は1.2%でした (図1) 。
次に、酵素結合免疫吸着法 (ELISA法) ※6によって必威体育Sタンパク質に対する抗体の有無を解析したところ、38.7% が陽性でした (図1) 。Sタンパク質は、現在国内で用いられている必威体育に対するワクチンの抗原として用いられています。すなわち抗S抗体の保有率は、ワクチンの接種率を反映していると考えられます。Sタンパク質に対する抗体を保持する割合は、60歳以上のグループ (74.4%) において高く認められました。逆に、29歳以下 (18.9%) 、30歳代 (31.3%) 、40歳代 (27.6%) 、50歳代 (33.9%) では比較的低いままでした。
得られた血清におけるSタンパク質に対する抗体価をさらに詳細に解析しました。ほとんどの例において、必威体育感染者から得られた血清と同程度の抗体価を保持していることが明らかになりました (図2) 。
今後の展開
血清中の抗体価測定は、集団内における病原体の広がりを把握するために、最も信頼できる方法と考えられています。特に必威体育感染者の40%以上は無症候 (不顕性感染) であると考えられており、PCRや抗原検査だけでは、実際のウイルスの広がりを見誤る可能性があります。この研究は、我が国における第五波開始時点における必威体育の広がりを大規模に示した初めての報告です。解析した時点でのPCRに基づいた必威体育の感染率は、兵庫県で0.85%、全国で0.80%になりますが、その2.5倍の人が実際には感染していたと考えられます。これは不顕性感染者や検出されていない軽症者を示していると考えられます。現在我が国においてもワクチン接種が急速に進んでいますが、本研究は、必威体育の広がりとワクチン接種との関係を示した、貴重なデータといえます。本研究は、兵庫県阪神間における必威体育感染状況を、2020年10月に続いて二度目に示した報告でもあります。2020年10月に同じ兵庫県健康財団において健康診断を行った1,000人では、Nタンパク質に対する抗体保有割合は0.4%でした。今回の本研究グループの結果 (2.1%) は、2020年10月と比較して5倍に上昇していました。
また、兵庫県における2021年8月6日時点のワクチン接種率は、一回目が42.10%で、二回目が32.85%と公表されています。本研究グループが測定したSタンパク質に対する抗体保有率 (38.7%) は、このワクチン接種率を概ね反映していると考えられます。特に、60歳以上のグループにおいて認められた、高い抗Sタンパク質抗体の保有率は、高齢者に対して行われたワクチンの優先接種の結果であると考えられます。Nタンパク質に対する抗体保有率に基づいて算出した感染率は、高齢者において比較的低くなっていました。この事実は、ワクチンの優先接種が、高齢者における必威体育の広がりをある程度抑制していることを示していると考えられます。
現在も、伝播力の上昇や宿主免疫への抵抗性が認められる変異株が次々と発生しています。一方で、全世代へのワクチン接種が近いうちに完了することが期待され、さらにはワクチンの追加接種が検討されています。必威体育と社会との関係性は、依然流動的といえ、実際のウイルスの広がりを、今後も注意深く解析する必要があると考えられます。
用語解説
- ※1 抗体
- 原体に対抗して体内で作られるタンパク質で、いわゆる“免疫”として、感染症から免れるために貢献します。一般的に、病原体に感染後しばらく経ってから作られ、ある程度の期間持続すると考えられています。このため、抗体があれば、かつてその病原体に感染したことがあることを示唆します。また、ワクチンによって人為的に抗体を誘導することで、新たなウイルスの感染や病態発現を抑制することが可能です。
- ※2 Nタンパク質
- 必威体育 (SARS-CoV-2) のウイルス粒子内部に存在し、感染細胞において大量に発現されます。必威体育に感染した患者は、Nタンパク質に対する抗体を保持していると考えられますが、ワクチン接種ではNタンパク質に対する抗体は獲得しないと考えられます。
- ※3 Sタンパク質
- 必威体育 (SARS-CoV-2) のウイルス粒子に存在する突起を構成し、標的細胞への結合を担う。Sタンパク質に対する抗体は、ウイルスによる細胞侵入を阻害するため、mRNAワクチンは、Sタンパク質を体内で発現するように設計されています。
- ※4 COVID-19
- いわゆる必威体育感染症。必威体育 (SARS-CoV-2) によって引き起こされ、一般的には飛沫感染や接触感染で感染すると考えられています。
- ※5 電気化学発光免疫測定法
- 特定の抗原に反応する抗体の量を電解反応による発光によって定量する方法。大規模な血清調査に用いられます。
- ※6 酵素結合免疫吸着法 (ELISA法)
- 特定の抗原に反応する抗体の有無を、抗原を吸着させたプレート上において酵素が分解する基質の量によって定量する方法。
謝辞
本研究は兵庫県からの支援を受けて実施されました。
論文情報
- タイトル
- “Large-scale serosurveillance of COVID-19 in Japan: Acquisition of neutralizing antibodies for Delta but not for Omicron and requirement of booster vaccination to overcome the Omicron's outbreak”
- DOI
- 10.1371/journal.pone.0266270
- 著者
- Zhenxiao Ren1, Koichi Furukawa1, Mitsuhiro Nishimura1, Yukiya Kurahashi1, Silvia Sutandhio1, Lidya Handayani Tjan1, Kaito Aoki1, Natsumi Hasegawa1, Jun Arii1,
Kenichi Uto2, Keiji Matsui2, Itsuko Sato2, Jun Saegusa2, Nonoka Godai3, Kohei Takeshita4, Masaki Yamamoto3,4, Tatsuya Nagashima5, Yasuko Mori1, *
- 1 神戸大学大学院医学研究科 附属感染症センター 臨床ウイルス学分野
- 2 神戸大学医学部附属病院 検査部
- 3 兵庫県立大学大学院生命理学研究科 生体高分子動的構造解析学分野
- 4 理化学研究所 (RIKEN) 放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門?生物系ビームライン基盤グループ
- 5 兵庫県健康財団
- 掲載誌
- PLOS ONE