神戸大学大学院人間発達環境学研究科の喜屋武享助教、琉球大学医学部保健学科疫学?健康教育学分野の高倉実教授と、教育学部?大学院地域共創研究科の宮城政也教授は、小中学生の24時間行動(睡眠、身体活動、スクリーンタイムの組み合わせ)ガイドラインの達成状況によって主観的健康度が異なることを見出しました。これは日本人集団における世界初の研究成果です。青少年の健康増進にとって、3つの行動の相互補完関係を念頭に置いた行動促進/抑制施策が重要であることを示唆しています。
この研究成果は2022年11月18日に国際学術誌 Public Health に掲載されました。
ポイント
- 身体活動、座位行動、睡眠は、いずれかが増えるといずれかが減る相補関係にある。これに依拠して、欧米諸国では、3行動の推奨時間を統合したガイドラインが発出されており、その達成状況と健康状態との関連を示したエビデンスの蓄積が進んでいる。他方、日本人集団を対象としたエビデンスは少なく、検討の余地がある。
- 全ての推奨ガイドラインを達成していない割合は、小学生が39.2%、中学生が10.4%と差がある。
- 小学生において、「スクリーンタイムと睡眠」のガイドラインを達成することは、良好な健康状態と関連する。
- 中学生においては、「身体活動のみ」、「睡眠のみ」、「スクリーンと睡眠」、「身体活動と睡眠」、「3つ全て」のガイドラインを達成することが、良好な健康状態と関連する。
- 青少年、特に中学生の健康増進には、夜間に適度な睡眠をとることに焦点を当てながら身体活動を促進することが有効である可能性がある。
研究の背景
24時間の活動は、身体活動、座位行動、睡眠からなり、そのうちのどれかが増加すれば、別のどれかが減少するという相補的な関係にあります。各行動が青少年の健康と関係することはよく知られていますが、健康への影響をより正しく捉えるためには、これらの行動が1日24時間の中でどのように組み合わさることが健康にとって良いのかについても検討する必要があります。最近になって、欧米を中心に、この重要性を支持する気運が高まり、これらを統合した「動作行動Movement Behavior」として、その健康影響を解明しようとする研究が増加しています。カナダとオーストラリアは、それぞれの行動の推奨時間を示した子どもと青少年のためのガイドライン:24時間行動ガイドライン24-Hour Movement Guidelinesを発出しています。これらのガイドラインは、毎日少なくとも180分(そのうち60分は中強度から高強度)の身体活動を実施すること、スクリーンタイムを1日2時間未満に抑えること、少なくとも8~10時間睡眠(5~11歳は9~11時間)をとることを推奨しています。アジア太平洋地域でも同様のガイドラインを作成する動きがあります。
日本では24時間行動ガイドラインの達成と健康指標との関連を調べた研究はほとんど行われていません。欧米諸国ではエビデンスの蓄積が進んでいるものの、日本の青少年にこのガイドラインを普及させることが適切かどうかを判断するためには、日本人集団を対象とした研究が必要です。
本研究では、日本の青少年集団における24時間行動ガイドラインの達成と主観的健康との関連を検討することを目的としました。特に、思春期は年齢が上がるにつれて主観的健康の不調を訴える割合が増加する傾向があるため、年齢層毎にその関連性が異なるかを検討しました。
研究の内容
研究チームは、沖縄県内の小学校31校に在籍する小学5年生2,408名 (女子52.2%)、中学校30校に在籍する中学2年生4,360名 (女子49.9%) を対象に質問紙調査を実施しました。参加者のデータは、学校を抽出単位とするクラスター?サンプリングによって収集されました。本研究の対象となった学校は、学校種ごとの人数および各地域の学校数に偏りが出ないように選定されました (確率比例抽出)。
ロジスティック回帰分析により、睡眠?身体活動?スクリーンタイムの推奨時間の達成状況と主観的健康度との関連を検討しました。共変量として、性別、体格 (body mass index)、家庭の社会経済状態、親のサポート、学校満足度、勉強のプレッシャーを調整しています。
解析の結果、小学生において「スクリーンタイムと睡眠」ガイドラインを達成することは、良好な健康状態と関連していた。それに対し、中学生においては、「身体活動のみ」、「睡眠のみ」、「スクリーンと睡眠」、「身体活動と睡眠」、「3つのガイドラインの全て」の達成が、良好な健康状態と関連していることがわかりました (図1)。
今後の展開
これまで各健康行動の重要性はそれぞれ個別に示されてきたが、本研究により、適度な睡眠と十分な身体活動を組み合わせて促進することが青少年(特に中学生)の健康増進において効果的である可能性を示唆した。青少年におけるより効果的な健康増進施策の提言に向けて、今後は他の健康指標との関連も検討しつつ、縦断研究1や介入研究、各行動?結果指標の客観的な測定により、因果関係に迫る必要がある。
用語解説
- 1 縦断研究
- 同一の変数(人など)を短期間または長期間に亘って繰り返し観察する研究デザイン。
論文情報
- タイトル
- “Association between 24-h movement behavior and self-rated health: a representative sample of adolescent in Okinawa, Japan”
- DOI
- 10.1016/j.puhe.2022.10.012
- 著者
- Akira Kyan, Minoru Takakura, Masaya Miyagi
- 掲載誌
- Public Health