壷井達也さん

「文武両道」で注目されることが多い。世界を舞台に活躍するフィギュアスケーターで、国際人間科学部3年の壷井達也さん。「両方を十分に極められてはいないですが」と照れくさそうに話す笑顔が印象的だ。

フィギュア王国?愛知県出身。スケートを習い始めた姉に付いていき、3歳ごろからリンクに通うようになった。小学生時代から頭角を現し、中学時代には海外の大会にも出場し始めた。浅田真央選手らも在籍した中京大学附属中京高校 (名古屋市) 時代には、1年生で全日本ジュニア選手権優勝。神戸大学入学後は、2022年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得し、同年のシニア転向後も国際大会で上位に食い込んでいる。

「勉強もスケートも」という姿勢は、大学入学前から一貫している。高校時代は、国立大学への進学を視野に入れた理系コースに進んだ。スケートでは度重なる足首のけがに苦しんだが、厳しいリハビリに耐えてリンクに立った。高校2年の終わりからは、必威体育感染症の流行で外出さえままならない生活になったものの、「受験勉強に打ち込む時期。足を休めることにもつながる」と前向きに捉え、見事現役合格を果たした。

神戸で世界レベルの選手と切磋琢磨

神戸大学を志望したのは、「スポーツ科学を学びたい」という思いがあったからだ。その分野への関心はもちろん、選手としての経験と深く結び付いている。

「スケートに限らず、アスリートの体の動きについて学びたいと思いました。トレーニング方法を考える上でも筋肉の動きなどを学ぶのは重要なこと。高校で理系を選んだのも、人間の動きを解明するために数学や物理が必要と感じたからでした」

西宮市の「ひょうご西宮アイスアリーナ」を練習拠点の一つとしている壷井さん

神戸の地は、スケートの練習環境も重視した選択だった。現在、夏は通年型の「ひょうご西宮アイスアリーナ」 (西宮市)、シーズン中は神戸?ポートアイランドと尼崎市のリンクが拠点。北京オリンピック銅メダルの坂本花織選手、2022年グランプリファイナル優勝の三原舞依選手も同じ指導者のもとで共に練習しており、「トップ選手がいる環境は安心感があり、モチベーションにつながる」と話す。

大学入学から約2年半。面白いと感じたのは、データサイエンスや生体力学に関する授業という。3年生になり、自身が目指したスポーツ科学の専門性を深めていく時期に入った。多忙な日々だが、課外活動では体育会スケート部にも所属。初心者の部員に教える立場になることが多く、それが自身の学びにも良い影響をもたらしている。

「自分が無意識にしているターンやジャンプ、エッジの使い方などについて質問を受けます。言葉で説明するには、改めて考える必要があり、とても勉強になります」。さまざまな経験を通して、技術と理論の融合がさらに深まっているようだ。

ふだんの生活では、スケート部の仲間や学部の友人と食事を共にすることもある。JR六甲道駅周辺で学生に人気のラーメン店に足を運び、「ラーメンのおいしさに気づいた」という。西宮のリンクには自宅から自転車で通い、自炊もこなす。「学食は安くておいしいのでよく行きます」と話す姿には、氷上の顔とは異なる「普通の大学生」の雰囲気が漂う。

スポーツ科学を専門に「文武融合」で

昨年は、大手医療用検査機器?試薬メーカーのシスメックス (神戸市中央区) と所属契約を結んだ。坂本花織選手らも契約している企業で、「遠征や練習にかかる費用を支援していただけることで、安心して練習に打ち込める」と笑顔を見せる。

壷井さんの練習の様子(壷井さん提供)

2023年から24年のシーズンの目標は、グランプリシリーズでの表彰台だ。その先は、2026年にイタリアで開催される冬季オリンピック出場を目指す。

世界で戦うために必要な心構えは何か。「結果を残したいという強い意志と、試合までの徹底的な準備」という答えが返ってきた。大学の授業はなるべく前期に履修して大会シーズンと重ならないようにするなど、学業とのバランスも常に考えている。

将来の進路については、大学院進学も視野に入れている。「スケートを仕事にすることは考えていませんが、スポーツ科学という専門性を生かした仕事に就ければ」と未来を見据える。

神戸大学を目指す高校生や後輩へのメッセージは「入学したら終わりではなく、大学に入ってからも何らかの目標を持ち、『成し遂げたい』という思いで日々を過ごすことが大切だと思います」。

座右の銘は「継続は力なり」。「もっと独自性のある言葉がないかと考えるんですが、見つからなくて」と笑う。しかし、その信条は、幼いころからの自身の歩みそのものだ。これからも努力を重ねて「文武融合」の道を切り開き、世界への挑戦を続ける。

略歴

つぼい?たつや 2002年生まれ。愛知県岡崎市出身。2021年4月、神戸大学国際人間科学部発達コミュニティ学科入学。世界ジュニア選手権銅メダル (22年)。22-23年シーズンにシニア転向。23-24年シーズン、日本スケート連盟の強化選手に選ばれている。スピード感のある滑りとジャンプの調和に定評がある。シスメックス所属。西宮市在住。