神戸大学先端バイオ工学研究センターの秀瀬涼太特命准教授、加藤悠一特命助教、松田真実特命助手、蓮沼誠久教授らの研究グループは、同大学院人間発達環境学研究科の蘆田弘樹教授、静岡大学の大林龍胆助教、東京工業大学の今村壮輔准教授 (研究当時。現 日本電信電話株式会社 (NTT) 宇宙環境エネルギー研究所 特別研究員)、田中寛教授らと協力して、光合成細菌の一種であるシアノバクテリアにおいて警告物質が窒素利用を制御する際の作用メカニズムを解明しました。今後、本知見に基づいてシアノバクテリアの生育やアミノ酸生産の人為的な制御が可能になるなど、光合成によるバイオものづくりでの活用が期待されます。
この研究成果は、12月26日午後7時 (日本時間) に国際学術誌「Communications Biology」に掲載される予定です。
ポイント
- 光合成細菌の一種であるシアノバクテリア (図1) は、二酸化炭素からバイオマスを生産できることから、環境負荷の少ない次世代の有用物質生産者として研究開発が進められている。
- シアノバクテリアは光合成によって生育する際、アミノ酸などを合成するために窒素同化※1を行う。
- ストレス条件 (暗所など) では窒素同化が抑制されるが、そのメカニズムは未解明であった。
- ストレス条件で生産される警告物質※2が、窒素同化を活性化する化合物の合成を阻害することで、窒素同化の制御に関係することを解明した。
研究の背景
光合成細菌の一種であるシアノバクテリアは、植物と共通する光合成色素 (クロロフィル) を持ち、二酸化炭素を固定して酸素を発生する光合成によって生育します。そこでシアノバクテリアを利用し、二酸化炭素を原料として燃料やポリマー素材などの有用物質を生産する研究開発が進められています。シアノバクテリアは光合成によって生育する際、アミノ酸などの合成に必要な窒素同化を行います。シアノバクテリアの窒素同化は、転写調節因子※3であるNtcAタンパク質によって制御されており、NtcAタンパク質は細胞内の2-オキソグルタル酸 (2-OG) によって活性化されます。暗所などのストレス条件では、警告物質として知られるグアノシン四リン酸 (ppGpp) が増加し、NtcAタンパク質が不活性化することで窒素同化が抑制されます。しかし、ppGppがNtcAタンパク質を不活性化するメカニズムは未解明でした。
研究の内容
研究グループは、シアノバクテリアSynechococcus elongatus (図1) に枯草菌のppGpp合成酵素遺伝子を遺伝子組換えで導入し、ppGppの蓄積を人為的に引き起こすことのできるシアノバクテリアを開発しました。ppGppを蓄積したシアノバクテリアの代謝応答を解析した結果、クエン酸をイソクエン酸に変換する酵素であるアコニターゼの活性がppGppによって阻害されることを発見しました (図2) 。2-OGはイソクエン酸から合成されるため、ppGppが蓄積すると2-OGの合成が低下し、細胞内の2-OG量が減少することがわかりました。このように、アコニターゼ活性の阻害を介して2-OGを減少させ、2-OGによって活性化するNtcAタンパク質を不活性化することが、ppGppによる窒素同化の制御メカニズムとして明らかになりました。
今後の展開
本研究で得られた知見に基づき、シアノバクテリアの窒素同化を人為的に制御する技術の開発が期待されます。これにより、シアノバクテリアの生育やアミノ酸の生産を人為的に調整して燃料やポリマー素材などの有用物質を高生産化するなど、光合成によるバイオものづくりの実用化に貢献することが期待されます。
用語解説
※1 窒素同化
細胞が硝酸イオン (NO3?) やアンモニウムイオン (NH4+) などの無機窒素化合物を材料として、アミノ酸などの有機窒素化合物を合成すること。
※2 警告物質
ストレス条件において生産され、細胞内において信号を伝える物質。
※3 転写調節因子
DNAに結合することで遺伝子の機能を調節するタンパク質。
謝辞
本研究の遺伝子発現解析 (RNA-seq) は静岡大学グリーン科学技術研究所によって実施されました。本研究はJST未来社会創造事業 (JPMJMI19E4) 「細胞分裂制御技術による物質生産特化型ラン藻の創製と光合成的芳香族生産への応用」の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル
“ ppGpp accumulation reduces the expression of the global nitrogen homeostasis-modulating NtcA regulon by affecting 2-oxoglutarate levels ”
(ppGppの蓄積は、2-オキソグルタル酸レベルに影響を及ぼすことでグローバルに窒素恒常性を調節するNtcAレギュロンの発現を低下させる)DOI
10.1038/s42003-023-05632-1
著者
Ryota Hidese#, Ryudo Ohbayashi#, Yuichi Kato, Mami Matsuda, Kan Tanaka, Sousuke Imamura, Hiroki Ashida, Akihiko Kondo, and Tomohisa Hasunuma*
# Equal contribution
* Corresponding author掲載誌
Communications Biology