神戸大学大学院国際協力研究科?極域協力研究センター長の 柴田明穂 教授(国際法)と、ロシア?サンクトペテルブルグ大学の アレキサンダー?セルグーニン 教授(国際関係論)による、2017年に成立した国際条約である北極科学協力協定を活用したロシアと日本の北極科学協力の可能性についての考察をまとめた国際共著論文が、学術誌「Yearbook of Polar Law」第14巻に掲載されました。
ポイント
- 柴田教授が研究代表を務める北極域研究加速プロジェクト (ArCS II) の国際法制度課題研究の一環として、北極ガバナンスの現状と課題につき異分野共創研究を通じて鋭く考察する4本の論稿を、極域法年鑑 (Yearbook of Polar Law=YPL) 第14巻において発表。
- YPLは、世界で唯一、北極と南極にフォーカスした国際法政策研究を査読付き論稿として掲載する学術年鑑であり、この度、YPL第14巻において、「北極域とArCS IIの貢献」と題する特別セクションを設け、これまでの国際共同研究の成果をまとまった形で発表。
- セルグーニン教授との国際共著論文の中で、柴田教授は、北極科学協力協定を活用して、ロシアによるウクライナ侵攻後においても、研究者個人レベルでの北極学術研究を進める可能性を示唆。
掲載概要
柴田教授が研究代表を務める北極域研究加速プロジェクト (ArCS II) の国際法制度研究課題は、極域法年鑑 (YPL) をその成果発表の中心的媒体として位置づけています。そのため、柴田教授は、北極国際法研究の世界的拠点であるフィンランド?ラップランド大学北極センターのティモ?コイブロバ教授 (2022年度神戸大学教員教授)、アイスランド?アクレイリ大学極域法研究所のグドムンドール?アルフェッドソン教授などと共に、2020年からYLPの共同編集代表に就任しており、今回の第14巻については、特別共同編者として、特別セクション「北極域とArCS IIの貢献」設置を実現しました。第14巻編者には、2021年から2022年にかけて極域協力研究センター(PCRC)?フェローとして活躍していた現プリンストン大学研究員のエレナ?ヤルマコヴォ博士が就いています。
なお、今回の4本の論稿は、2021年11月に神戸大学で開催された第14回極域法国際シンポジウムでの研究報告が基礎になっています。
掲載内容と成果
ロシア?サンクトペテルブルグ大学のアレキサンダー?セルグーニン教授 (国際関係論、2022年神戸大学JSPS外国人招へい教授、ArCS II研究協力者) と柴田教授の共著論文「2017年北極科学協力協定の実施:ロシアと日本にとっての課題と可能性」と題する論稿は、この協定を用いて如何にロシアと日本が北極科学協力を推進できるかを考察しています。この論文はロシアによるウクライナ侵攻前の情報?情勢に基づいて分析されていますが、最終章において、同侵攻の影響についても記載されています。柴田教授らは、気候変動やその社会的影響に関する北極における学術研究は、いずれかの国を資するものではなく、北極域と地球全体のためになるものであり、本協定を活用して、研究機関及び研究者個人レベルで学術交流が継続できないかその可能性を示唆しています。
YLP第14巻のArCS II特別セクションにはその他にも、国際法制度課題研究分担者で西南学院大学の根岸陽太准教授 (国際法) による「人間?自然?動物が共生する法~北極圏の先住民族の人権と尊厳」、同研究協力者のグドムンドール?アルフレッドソン教授による「国連国別訪問:1991年アイヌ訪問と北極への示唆」、ArCS IIの支援の下で採用された第14回極域法シンポジウム?フェローでノルウェー北極大学博士課程のアポストロス?ツゥオヴァラス氏による「北極ノモスを解体する:海洋管理と主権概念」、そして中国の若手研究者で現在米国ハミルトン大学研究員のユアンユアン?レン博士による「大国間競争時代の米国と中国の北極協力の可能性と課題」が集録されています。
極域法に関心を有する世界中の研究者?実務家?先住民族を含むステークホールダーの多くが参照するYPLにおいて、日本のナショナル?フラッグシップ研究プロジェクトであるArCS IIの研究成果が特別セクションとしてまとまった形で掲載されたことは、我が国の北極国際法研究の学術的水準と、その中における神戸大学を中心とした国際?国内両レベルでの異分野共創共同研究の展開を世界に知らしめることができました。
今後の展開
ウクライナ侵攻のみならず、中国の影響力増大など、国際社会を基底するこれまでの秩序構造が大きな挑戦を受けている今、科学協力を中心に国家間協力の先駆であり最も成功してきた地域である北極と南極をめぐる国際情勢がますます注目されています。このまま極域国際協力も衰退していくのか、それとも第二次大戦後の南極、冷静終結時の北極がそうであったように、極域科学協力が国家間の対立を回避して、国際協力の「かすがい」としての役割を再度担いうるのか、極域国際法政策研究はますます重要になってきています。ArCS II国際法制度課題及び神戸大学極域協力研究センターでは、こうした喫緊の課題に果敢に取り組み、その成果を公開講演会やその録画映像のオンデマンド視聴などを通じて、社会に積極的に還元し、世界市民的議論をリードしていきます。
雑誌情報
タイトル
Implementing the 2017 Arctic Science Cooperation Agreement: Challenges and Opportunities as regards Russia and Japan (open access)
DOI
10.1163/22116427_014010004
著者
Alexander Sergunin, Akiho Shibata
掲載誌
Yearbook of Polar Law, Vol.14