神戸大学大学院理学研究科博士後期課程 (研究当時) の長足友哉さん (現東北大学日本学術振興会特別研究員PD) と中村昭子准教授は、小惑星由来とされる隕石破片の付着力を測定し、付着力が破片の大きさに依らないことを明らかにしました。この結果は、小惑星粒子が、従来想定されていたよりも桁違いに弱い付着力を持ち、小惑星表面で動きやすいことを示します。この研究成果は、3月17日に、米国の国際学術雑誌 Science Advances に掲載されました。
ポイント
- 付着力は、小惑星のような微小重力環境で砂や土のような小さな粒子に働く力として重要と考えられているが、小惑星粒子の付着力に対する粒子の大きさの影響は未解明だった。
- ミクロンサイズと数十ミクロンサイズの隕石破片の付着力を測定し、付着力が破片の大きさやでき方に依らず、粒子を球形と仮定した従来の推定よりも桁違いに小さいことを示した。
- この結果は、小惑星表面で粒子が動きやすいことを示唆する。
研究の背景
小惑星表面のような微小重力の環境では、付着力は砂や土のような小さな粒子に働く力として重要です。例えば、小惑星への隕石衝突で発生した地震動によって表面の粒子が動くことができるかどうかに影響します。球粒子の付着力は、粒子の大きさに比例します。しかし、実際の小惑星粒子は、隕石衝突などで壊れてできたもので、表面に凹凸を持ちます。これまで、不規則な形をした小惑星粒子の付着力が粒子の大きさにどのように依るのかはよく分かっていませんでした。
研究の内容
小惑星粒子の大きさやでき方がその付着力にどのように影響するかを調べるため、ミクロンサイズと数十ミクロンサイズの隕石破片 (アエンデ隕石とタギッシュレイク隕石) を2つの方法 (乳棒で潰す?弾丸を衝突させて破壊する) で準備して、それぞれの付着力を測定しました。付着力は遠心法と呼ばれる手法で測定しました (図1)。粒子を平らな板にそっと置くと、粒子は板に付着します。その後、付着した粒子に遠心力をかけて、板から粒子を引き離すのに必要な力 (=付着力) を測定します。
測定の結果、隕石破片のでき方は付着力に影響しない一方、より細かい凹凸が表面にみられるタギッシュレイク隕石破片はアエンデ隕石破片の数分の1の付着力でした (図2A)。ミクロンサイズの破片は数十ミクロンサイズの破片の数分の1の付着力でしたが、ミクロンサイズの破片を板に押し付けてから測定すると、破片の大きさによる付着力の違いはみられなくなりました (図2B)。この付着力の変化は、押し付ける力の大きさによって、粒子と平板の接触点の数が変化した結果と考えられます (図2C)。つまり、接触点当たりの付着力は、それぞれの隕石特有の表面凹凸の細かさで決まっていて、破片の大きさやでき方には依らないと考えられます。本研究の結果から推定される小惑星粒子の付着力は、粒子の大きさに比例する付着力よりも桁違いに弱いので (図2D)、隕石衝突で発生した地震動などで力を受けた時、これまで考えられていたよりも粒子が動きやすいと考えられます。実際、はやぶさやはやぶさ2などの小惑星探査では、小惑星表面の粒子が活発に移動していることがわかってきています。
今後の展開
隕石破片の付着力は、宇宙に存在する固体粒子の付着力を理解するための重要な手がかりとなります。これは、小惑星表面がどのような進化をするかを理解するためだけでなく、固体微粒子がお互いに付着することで大きくなっていくという惑星形成の初めの段階や、大気をもつ天体での風による表面粒子の移動を理解する上でも重要で、今後、これらの研究への応用が期待できます。また、隕石破片の付着力は、はやぶさ2が行ったような天体から試料を持ち帰る将来の探査計画において試料の回収のしやすさを評価するのに重要な情報になると考えられます。
用語解説
- ※1 C型小惑星
- 本研究で用いたアエンデ隕石やタギッシュレイク隕石のような有機物を含む隕石(炭素質コンドライト)に似た物質でできていると考えられている小惑星。はやぶさ2が訪れた小惑星リュウグウはC型小惑星に分類されている。
論文情報
- タイトル
- “High mobility of asteroid particles revealed by measured cohesive force of meteorite fragments”
- DOI
- 10.1126/sciadv.add3530
- 著者
- Yuuya Nagaashi, Akiko M. Nakamura
- 掲載誌
- Science Advances