学術研究院ヘルスシステム統合科学学域佐藤あやの准教授の研究室 (岡山大学オルガネラシステム工学研究室) は、体を構成し、生命の最小単位である細胞、その中にある細胞小器官 (オルガネラ) やオルガネラの一つで糖鎖生合成に関わるゴルジ体の研究をしているグループです。また、共同研究者の神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の辻野義雄教授の研究室では、コスメトロジー (化粧品学) の研究を、国立遺伝学研究所大量遺伝情報研究室の坂本美佳 特任研究員はゲノム解析の研究をしています。今回の共同研究では、さまざまな病気の原因となる酸化ストレスを解消する薬となり得る黒酢由来の化合物に、糖鎖の生合成を変化させる効能があることを見出しました。
本研究成果は、2023年2月13日、PLOS ONEに掲載されました。今後、この発見を病状判断などのマーカーとして活かすことができるかどうかを検討していきたいと考えています。
ポイント
- 体に良いと言われている黒酢の効能の一つを明らかにしました。黒酢に含まれる化合物、5-ヒドロキシ4-フェニルブテノリドには、ストレスの一種であり、アルツハイマー病、脳梗塞、心臓血管疾患などと関係する酸化ストレスを解消するのに役立つ、抗酸化能力があります。
- 本研究では、この化合物やその他の植物由来の抗酸化能力をもつ化合物が糖鎖生合成を調節していることを見出しました。
現状
体の中や細胞の中には、酸化還元状態を正常に保つ仕組みがあります。しかし、この仕組みが乱れ、例えば、酸化に傾いた状態になってしまうのが、酸化ストレスです。酸化ストレス状態は、脳梗塞や、心臓血管疾患、アルツハイマー病などで見られる状態であり、このストレスを解消できる薬、抗酸化剤は、症状の緩和に役立っています。
「お酢は体に良い」とされていますが、共同研究者の辻野教授の研究グループが黒酢由来のこの化合物に、抗肥満活性、つまり太りにくくする効能があることを発見しました。また、同じ化合物が、抗酸化の効能をもつことも見出しています。この化合物は当初、香醋から発見されましたが、最近の研究により、国産の黒酢にも含まれていることが明らかになっています。
研究成果の内容
本研究では、黒酢に含まれる抗酸化化合物である5-hydroxy-4-phenyl-butenolide (5H4PB) が、ヒトケラチノサイト細胞の糖鎖生合成に与える影響を、遺伝子発現データから糖鎖構造を予測するツール「GlycoMaple」を用いて明らかにしました。その結果、コアフコースと呼ばれる糖鎖構造の増加が酸化ストレス応答の新規マーカーとなる可能性があること、抗酸化応答を活性化させる薬剤が一般に糖鎖生合成に影響を与える可能性があることが示唆されました。本研究の成果は、抗酸化応答を促進し、糖鎖生合成に影響を与える黒酢由来化合物の潜在的な役割について新たな視点を提供し、酸化ストレスの文脈におけるこれらのプロセスの相互作用を理解することの重要性を浮き彫りにしました。
社会的な意義
本研究は、糖鎖生合成と酸化ストレスの複雑な関係を明らかにし、酸化ストレス応答の新たなマーカーとなる可能性を提供するものです。また、黒酢に含まれる化合物5H4PBの潜在的な健康効果や、遺伝子発現の変化に応じた糖鎖構造を予測するツールとしてのGlycoMapleの可能性にも光を当てています。本研究による知見は、アルツハイマー病や心血管疾患など、酸化ストレスに関連するさまざまな病態の新たなマーカー開発につながる可能性があります。
研究資金
本研究は、科研費の支援を受けて実施しました(21H05028, 22K06128)
論文情報
- タイトル
- “Fucosyltransferase 8 (FUT8) and core fucose expression in oxidative stress response”
- DOI
- 10.1371/journal.pone.0281516
- 著者
- Yuki M. Kyunai, Mika Sakamoto, Mayuko Koreishi, Yoshio Tsujino, Ayano Satoh
- 掲載誌
- PLOS ONE