神戸大学大学院医学研究科の米田勝彦大学院生、上田洋助教、三枝淳准教授 (免疫内科学/膠原病リウマチ内科) は、神戸大学医学部附属病院の谷村憲司特命教授 (産科婦人科学分野産科生殖医学部門)、大阪大学免疫学フロンティア研究センターの荒瀬尚教授 (免疫化学研究室)、手稲渓仁会病院不育症センター長の山田秀人らとの共同研究により、血液中の抗β2GPI?ネオセルフ抗体が、膠原病の女性患者さんにおける動脈血栓症に関連することを発見しました。
今後、動脈血栓症の発症メカニズムの解明や、膠原病患者さんの血栓症の予防法の開発につながることが期待されます。
この研究成果は、2023年10月6日に、『Arthritis Research & Therapy』に掲載されました。
ポイント
- 血液中に抗β2GPI?ネオセルフ抗体を有する膠原病の女性患者さんに、動脈血栓症の発症が多いことを発見した。
- 今後、膠原病における動脈血栓症の発症メカニズムの解明、動脈血栓症のハイリスク患者の検出、および血栓症の予防法の開発につながることが期待される。
研究の背景
膠原病※1患者さんは、心血管イベント (脳梗塞や心筋梗塞等) のリスクが高いことが知られていますが、その原因は明らかではなく、どのような患者さんに積極的な血栓予防治療を行うべきかは分かっておりません。
β2グリコプロテインI (β2GPI) 依存性抗リン脂質抗体という自己抗体は、抗リン脂質抗体症候群※2や全身性エリテマトーデスなどの膠原病患者の血栓症に関与することが知られていますが、膠原病の血栓症のすべてがこの自己抗体で説明できるわけではありません。
2015年に、大阪大学の荒瀬教授、神戸大学の谷村特命教授らの研究によって新しい自己抗体である抗β2GPI?ネオセルフ抗体が発見されました。「ネオセルフ抗体」とは、病気の原因となる標的タンパク質(自己抗原)と、その病気のなりやすさに関わるヒト白血球抗原クラスⅡ (HLA-DR) というタンパク質が結合した複合体に対して誘導される抗体のことです。新しい (「ネオ」) 考え方に基づく自己抗原 (「セルフ」) に対する抗体ということで、ネオセルフ抗体と名付けられています。そして、抗β2GPI?ネオセルフ抗体は、不妊症、不育症、妊娠高血圧症候群、胎児発育不全、早産などの産科異常症との関係が明らかにされました。
今回我々は、神戸大学医学部附属病院膠原病リウマチ内科へ通院中の膠原病患者さんに協力いただき、動静脈血栓症と抗β2GPI?ネオセルフ抗体の関連性について調査しました。
研究の内容
この研究に同意をいただいた膠原病の女性患者さんの血液中の抗β2GPI?ネオセルフ抗体と既存の抗リン脂質抗体を測定しました。そして、動静脈血栓症と抗β2GPI?ネオセルフ抗体との関連性について調べました。抗β2GPI?ネオセルフ抗体は、抗リン脂質抗体の対応抗原であるβ2GPIという蛋白質とHLA-DRが結合した複合体を細胞表面に発現する細胞を作成し、患者さんの血液と反応させて細胞表面の複合体と結合した抗体を検出するという特許技術を使って測定しました。
その結果、動脈血栓症の既往を有する膠原病患者さんでは、動脈血栓症の既往がない患者さんに比べて、抗β2GPI?ネオセルフ抗体値が有意に高いことがわかりました (表1)。さらに、抗リン脂質抗体症候群の診断基準を満たす膠原病患者さんに絞って解析しても、同様に動脈血栓症の既往のある患者さんの方が抗β2GPI?ネオセルフ抗体値が高いことがわかりました (図1)。そして、ROC解析により、172.359 U/mlが最適なカットオフ値と判明しました。このカットオフ値を用いて既存の抗リン脂質抗体と比較したところ、抗β2GPI?ネオセルフ抗体は、動脈血栓症の検出力が既存の抗体より優れていることが判明しました (図2)。
今後の展開
膠原病患者さんの血液中の抗β2GPI?ネオセルフ抗体を測定し、脳梗塞や心筋梗塞といった動脈血栓症を起こしやすい患者さんを効率的に検出して予防的治療を行うことにより、動脈血栓症の発症の減少につながることが期待されます。
用語解説
- ※1. 膠原病
- 本来細菌やウイルスのような異物を排除して自分を守る「免疫」の働きに異常が生じ、自分自身の体を攻撃してしまう (自己免疫) ことによって起こる病気の総称。女性に多い。
- ※2. 抗リン脂質抗体症候群
- 動脈血栓症、静脈血栓症、妊娠合併症をきたす病気。膠原病の一つであり、他の膠原病に合併することも多い。
謝辞
本研究は、日本医療研究開発機構 (AMED)、日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費助成事業、文部科学省 (MEXT) 科学研究費助成事業からの支援により実施されました。
論文情報
- タイトル
- “Association of anti-β2-glycoprotein I/HLA-DR complex antibody with arterial thrombosis in female patients with systemic rheumatic diseases”
- DOI
- 10.1186/s13075-023-03175-8
- 著者
- 米田勝彦、上田洋、谷村憲司、荒瀬尚、山田秀人、三枝淳
- 掲載誌
- Arthritis Research & Therapy