神戸大学大学院医学研究科外科学講座小児外科学分野の大片祐一特命准教授らと、同研究科腎泌尿器科学分野、肝胆膵外科学分野、岡山大学小児外科との合同チームは、da Vinciを用いた小児に対するロボット支援下副腎腫瘍摘出術とロボット支援下先天性胆道拡張症手術に成功しました。
小児患者に対するロボット支援手術は普及が進んでいないのが現状ですが、このたびの2例の手術は非常に高い質と安全性のもとに行われ、いずれの患児も術後経過良好で術後約1週間で退院しました。
ロボット支援手術では精緻な手術操作が可能となるため、現在急速に普及していますが、現存の手術支援ロボットは成人仕様であることから、小児に適用するには安全性を担保するために多岐にわたる課題を克服することが必要です。
神戸大学小児外科では、子どもたちにとってよりよい外科治療を提供するために、成人診療科?他医療機関?複数企業と協力連携して、新生児?乳児にロボット支援手術を安全に適応するための機器開発を行うなど、様々な努力を続けています。
ポイント
- 全国的にも稀少?貴重なロボット支援下小児外科手術に成功した。
- 手術はロボット支援手術に習熟した神戸大学の腎泌尿器科学分野、肝胆膵外科学分野、さらに岡山大学小児外科との合同チームとして行われた。
- 手術は高い質と安全のもとに実施され、いずれの患児も術後経過良好で約1週間で退院した。
- 神戸大学小児外科は今後も手術支援ロボットを用いた質の高い外科治療を子どもたちに提供するべく、手術支援ロボットの周辺機器開発を含めた研究を推進していく方針である。
研究の背景
小児に対する内視鏡(腹腔鏡?胸腔鏡)手術では、患者の体格が小さく、操作が出来るスペースが狭いことから、巧緻性を求めるには非常に高難度の技術が必要であり、また、その技術習得にも限界がある。
一方、ロボット支援手術では、執刀医がコンソールと呼ばれるコントローラーを操作して、ロボットが胸腔内や腹腔内に挿入した鉗子と呼ばれる手術器具を操作する。限られた空間でも人の手を超える緻密な操作が可能であることから、小児外科手術への応用が期待されている。しかし現存の手術支援ロボットは成人仕様であるため、手術支援ロボットの効果を最大限にするには多岐にわたる課題を克服しなければならないことから、国内の小児手術例が限られているのが現状である。
研究の内容
神戸大学小児外科は腎泌尿器科?肝胆膵外科さらには岡山大学小児外科との合同チームで、2023年10月に幼児の副腎腫瘍摘出術と学童の先天性胆道拡張症手術をそれぞれロボット支援下に実施した。2名とも術後の経過は非常に順調で、予定より早く術後約1週間で退院の運びとなった。いずれの手術術式も保険収載はされているものの、小児患者に対する手術例は全国的にも非常に少ない。今回はIntuitive Surgical社の手術支援ロボットであるda Vinci?を用いて実施した。神戸大学医学部附属病院では多数のロボット支援手術が行われており、ロボット支援手術の経験が豊富な成人診療科医師、麻酔科医師、手術室看護師?臨床工学技士、さらには小児ロボット支援手術の経験がある岡山大学小児外科医師との連携のもと、安全かつ質の高い手術を行うことが出来た。
今後の展開
手術を受けることになった子どもたちに緻密な操作が可能なロボット支援手術という選択肢があることを、まずは広く社会に周知し、さらには、子どもたちにより質の高い安全な手術を提供するために、ロボット支援手術に関連する機器開発?研究を、企業や他医療機関との産学連携?共同研究で継続していく。
手術支援ロボットは高精細な3D画像を用いた精緻な手術操作が可能であるが、使用にあたっては子ども特有の体格の小ささや組織の柔らかさに留意した様々な工夫が必要である。本学が大きく関わったメディカロイド社の国産手術支援ロボットhinotoriTMの開発実績や経験等の強みを生かし、未来を担う子どもたちがロボット支援手術の恩恵を受けることができるように、努力を続けたい。