神戸大学は各国の大学との学術交流が盛んで、留学生数は1000人を超える。在学中の留学生に対し、就職という新たなスタートを支援する体制も整え、グローバルな視点に立ったキャリア形成に力を入れている。キャリアセンターで留学生の就職活動を支援し、2023年度からは農学研究科でグローバル人材育成のプログラムにかかわる池村彰子特命講師に、これまでの取り組みや成果、現在進めている事業などについて聞いた。
留学生の就職支援に取り組んできた経験から、神戸大学の留学生の特徴をどのように捉えていますか。
池村特命講師:
神戸大学は、留学生の約8割が大学院生という特徴があります。学部生なら4年という在学期間の中でインターンシップや就職活動の計画を組めばよいのですが、修士課程は2年しかありません。修士課程に入った時から、専門分野の研究に加えて就職活動も意識しなければならないため、両方をバランスよく行う必要があります。
日本での就職に対する意識は留学生によってさまざまです。日本語能力が低い留学生の中には、日本では就職できないと思い込んでいる人もいます。しかし、日本語能力が不十分でも、専門分野に精通した人材であれば採用する企業もあります。神戸大学には留学生が英語によって学位を取得できる大学院プログラムがあり、普段から英語のみで研究を進めている大学院生もいますが、その専門性が認められて日本企業に就職する例もあります。支援する側としては、個々の留学生が持つキャリア観を捉え、それぞれの専門分野や日本語能力に応じたベストな選択を考えながら、企業と留学生のマッチングに力を入れてきました。
留学生に英語による就活セミナー、企業との交流会
具体的にどのような支援を?
池村特命講師:
国によって違いますが、海外では日本のような新卒一括採用(メンバーシップ型雇用)ではなく、通年採用や職務内容を明確にしたジョブ型雇用が一般的です。留学生は日本人学生に比べて就職活動の開始時期が遅い傾向にあるため、日本における就職活動の全体的な流れなど、基礎知識を身につけるセミナーを英語で企画してきました。また、日本企業から内定を獲得した留学生を研究支援員として雇用し、母国語で就職活動の体験談を語ってもらうなど、留学生の視点によるセミナーも定期的に実施しました。
日本では数十社にエントリーすることは当たり前ですが、留学生はそのような点にも非常に驚きます。セミナーでは、留学生には名前が知られていない兵庫県の優良なBtoB企業(企業間取引を主とする会社)など、特定の分野で世界的なシェアを誇る日本企業があることも紹介し、留学生にキャリアの選択肢を広げてもらう努力をしてきました。
キャリアセンターやグローバル教育センターの教職員と連携しながら、留学生対象のグローバルジョブフェア、兵庫県内企業と留学生の交流会なども開催しました。企業の方々にご参加いただくイベントでは、英語での説明や資料を事前に依頼しました。また、留学生向けに英語でのフライヤー作成やイベント案内を行うことで、日本語能力が十分でない学生も参加しやすくなります。こうした工夫をしながら、留学生と企業のマッチングを進めました。
わたしが神戸大学で留学生の支援を始めた2021年はコロナ禍の最中で、対面での催しが難しい状況であり、留学生は孤立しがちでした。ですから、オンラインでのセミナーや面談を最大限活用し、それぞれの学生に合った支援を心掛けました。オンラインの活用は学生にとってメリットもあり、交通費の負担なしで首都圏など遠方の会社説明会にも参加しやすくなりました。ICTツールを駆使して就職活動を行った留学生が、比較的早い時期に内定を獲得する傾向もありました。
就職活動に臨む留学生に伝えたいことは?
池村特命講師:
自信を持ち、自分の良い部分や留学生ならではの視点を大切にしてほしいですね。日本語能力が高い学生の中には、「日本人のようにふるまわなければ」と敬語やマナーにこだわりすぎる人もいます。しかし、留学生が持つグローバルな視野こそが重要だと思います。
「これをやらなければ」という狭い考え方ではなく、できれば楽しみながら就職活動をしてほしい。そういう思いから、留学生向けのセミナーでは自由に話せる交流の時間を大切にしてきました。在学中に就職が決まらなくても、大学院修了後に内定をもらうケースはあり、あきらめないことが大切だと思います。
「食」をテーマに国際連携、メタバース?キャンパスも
現在は、農学研究科で国際連携の強化、グローバル人材育成のプログラムにかかわっていますね。どのような事業ですか。
池村特命講師:
文部科学省が進める「大学の世界展開力強化事業」の一環で、2023年度からスタートしました。「食」をテーマとし、食糧やエネルギー問題、温暖化といった地球規模の課題解決に貢献する人材を育てようという取り組みです。海外の学生、神戸大学生を合わせ、1000人規模のグローバル人材を創出する目標を掲げています。農学系が中心ですが、神戸大学のさまざまな部局がかかわり、企業や地元自治体とも連携します。
学術交流協定を結んでいるネブラスカ大学リンカーン校をはじめ、アメリカ、カナダ、フィリピンの5大学がパートナー校となっており、各大学と神戸大学は学生を相互派遣します。神戸大学に来る外国人学生は、日本語を学んだ後、企業でのインターンシップにも参加します。
アメリカにおける事業拡大を計画している食品メーカーや、留学生を積極採用している兵庫県の企業と連携し、「食」にかかわる日本の現場を外国人学生に体験してもらう予定です。学生が学ぶだけでなく、外国人学生の視点で食の安心?安全、食文化などに関する意見を企業側に伝える発表も計画しています。企業にも外国人学生にもメリットがあるインターンシップにしたいと思っています。
このプログラムを通し、今後どのような国際連携、人材育成が期待できるでしょうか。
池村特命講師:
海外のパートナー校と神戸大学は一対一の連携ではなく、複数のパートナー校での連携を目指しています。インターネット上の仮想空間(メタバース)に神戸大学キャンパスも構築し、世界中の学生が交流、議論できる仕組みを構築していく方針です。このような環境を通し、日本側の学生もグローバルな視点を身につけ、自身の考えを世界に発信できるような人材になってほしいと思います。
海外から神戸大学に派遣される学生には、このプログラムで日本への関心を深め、将来的に神戸大学大学院での研究や日本での就職を視野に入れてもらいたいですね。日本と世界のかけ橋となる人材がたくさん育ってくれればうれしく思います。
池村彰子特命講師 略歴
2009年4月 | 大手前大学総合文化学部 助教 |
2011年4月 | 大手前大学就業力育成支援室 研究員 |
2015年3月 | 関西大学大学院文学研究科博士課程修了 博士(文学)取得 |
2018年9月 | 関西大学国際部 文部科学省委託事業「留学生就職促進プログラム」 SUCCESS-Osaka コーディネーター |
2021年3月 | 神戸大学大学院工学研究科/キャリアセンター 特命助教 |
2023年4月 | 神戸大学キャリアセンター 特命講師 |
2023年12月 | 神戸大学大学院農学研究科 特命講師 |