神戸大学都市安全研究センターが防災や復興などをテーマに毎月開いている研究者と市民らの対話の場「オープンゼミナール」が2024年11月、第300回を迎えます。スタートは阪神?淡路大震災から約2年後の1997年5月。震災で6000人を超える人々が犠牲となり、市民に向けて情報を発信する重要性を痛感した室崎益輝名誉教授(当時?工学部教授)が発案しました。来年1月で震災から30年となるのを前に、今年9月からは毎月、「震災30年とこれから」をテーマにさまざまな分野の研究者を招きます。
幅広い分野の講師を招き、一般に公開
都市安全研究センターは阪神?淡路大震災翌年の1996年に設立されました。オープンゼミナールは原則月1回、学内外の研究者、行政職員、企業の社員ら幅広い講師を招いて開催しています。国内外の災害に関する調査報告や研究成果のほか、自治体や企業の防災の取り組みなどが発表され、参加者と議論する形式で行われます。一般公開されており、参加者も大学教員や学生、防災に関心のある市民や自治体?企業関係者など多様です。
27年前の第1回の講師を務めたのは室崎名誉教授で、テーマは「建築基準法の性能規定化と防災設計のこれから」。当初は、阪神?淡路大震災の復興の課題やまちづくり、防災?防火対策といった内容が中心でしたが、テーマは徐々に広がりました。
鳥取県西部地震(2000年)、東日本大震災(2011年)、熊本地震(2016年)、西日本豪雨(2018年)、能登半島地震(2024年)など、大規模な災害が発生するとすぐに被災の実態や課題を取り上げてきました。台湾、トルコ、中国、インドで発生した地震、アメリカのハリケーン災害など、海外の災害をテーマにした回も数多くあります。南海トラフ巨大地震への備えや平時のまちづくりについてもたびたび議論してきました。
自然災害に限らず、明石市の歩道橋事故(2001年)や尼崎市のJR脱線事故(2005年)など、人的災害を取り上げてきたのも大きな特徴です。必威体育感染症などもテーマとし、危機管理について幅広く考える場となってきました。
人材育成の役割も
室崎名誉教授は、阪神?淡路大震災の遺族や被災者の言葉が開催のきっかけになったと話します。
「震災前は、研究成果を学会で発表したり、行政に報告したりすれば、市民にも情報が伝わると考えていました。しかし実際には、災害の危険性が伝わっていなかった。遺族からは『神戸に大地震が来ると、先生がもっと警告してくれていれば???』と聞かされました。責任を痛感し、市民と結びつく必要があると考えました」
ただ当初、市民の参加は多くありませんでした。室崎名誉教授は「最初は大学の講義を公開するような形で、参加者の多くは学生でした。回を重ねるうちに、学外の防災関係者や市民が増え、行政職員も参加してくれるようになりました」と振り返ります。
室崎名誉教授から担当を引き継いだ北後明彦名誉教授(元?都市安全研究センター教授)は「室崎先生が毎回、オープンゼミのお知らせのはがきを何枚も書いていたのが印象に残っています。大変な情熱を感じました」といいます。
300回も続くオープンゼミですが、講師やテーマが尽きることはありませんでした。北後名誉教授は「自分自身がそのときどきで学びたい内容を選んでいました。多様な分野の人の話を聞くのは、自分にとっても学生にとっても貴重な機会で、オープンゼミの内容が授業での議論につながることもありました」と、開催の意義を語ります。
一方、開催のスタイルは少しずつ変化してきました。2012年に都市安全研究センターと神戸市消防局が包括的協定を締結したのを機に、神戸市役所の危機管理センターを会場として共催する形になりました。大学内で実施していたころよりも市民が足を運びやすくなり、参加者の増加につながりました。
さらに、必威体育感染症が広がった時期以降はオンライン開催を取り入れ、現在は対面とオンラインを併用しています。この方式で、全国から参加できるようになったことは大きなメリットといいます。多いときには60人以上が参加しています。
現在オープンゼミを担当する近藤民代?都市安全研究センター教授は「これからも参加者とともに考え、学び合う場として運営していきたい。災害や社会の安全はひとつの学問領域ではなく、幅広い分野が関連しているので、テーマは限りなくあります。300回の節目を迎えても終わることは考えていません」と今後を見据えています。
室崎名誉教授も「オープンゼミはさまざまな人がつながる場所であり、人材育成の場にもなってきました。最近は学生の参加が減少しているので、積極的に参加してほしい。今後も、誰もが自由に語り合える場であり続けてほしいと思います」と話しています。
「オープンゼミナール友の会」を創設し、情報を共有
オープンゼミは今年から会員制(無料)を導入し、「オープンゼミナール友の会」に登録したうえで参加してもらう形式としました。入会すると、過去の動画や資料などをネット上で閲覧することができ(講師の承諾が得られた場合のみ)、参加者の学びの機会がさらに広がっています。
9月以降は「阪神?淡路大震災30年」に焦点を当て、▽9月21日=災害?復興法制の30年とこれから(金子由芳?神戸大学社会システムイノベーションセンター教授)▽10月19日=災害ボランティアの30年とこれから(頼政良太?関西学院大学人間福祉学部助教)▽11月16日=建築?都市安全計画の30年とこれから(北後明彦?神戸大学名誉教授)―の日程で開催する予定です。
オープンゼミナール友の会への登録はRCUSSオープンゼミナール友の会 (atlas.jp)から。