神戸大学大学院医学研究科の冨本雅子大学院生、谷村憲司特命教授(産科婦人科学分野)らと、廣田勇士准教授(糖尿病?内分泌内科学部門)らの研究グループは、妊娠中期(妊娠24~28週)の妊娠糖尿病スクリーニング検査で用いられることが多い随時血糖値測定法を単独で使用すると、多くの妊娠糖尿病が見逃される危険性があることを明らかにしました。今後、随時血糖値測定法ではなく、より検出率の高い50g糖負荷試験を積極的に導入していくことで妊娠糖尿病の見落としを減らせることが期待されます。この研究成果は、9月18日に、『Journal of Diabetes Investigation』に掲載されました。

ポイント

  • 妊娠糖尿病のスクリーニング検査として広く普及している随時血糖値測定法の問題について調査した。同じ患者さん一人に対して随時血糖値測定法と50g糖負荷試験を行って比較したのは世界で初めてである。
  • 随時血糖値測定法のみで妊娠糖尿病をスクリーニングすると、多くの妊娠糖尿病が見逃されることが判明した。
  • 兵庫県内の分娩取り扱い施設では、随時血糖値測定法が最も多く使用されていた。

研究の背景

妊娠糖尿病は、妊娠中に発見され、妊娠が終わると治る糖尿病です。妊娠中の血糖コントロールが悪いとお母さんや赤ちゃんに様々な悪影響を与えることが分かっています。さらに、赤ちゃんが大きく育ち過ぎて難産になってしまうなどの妊娠?出産時の悪影響ばかりでなく、そのお母さんと赤ちゃんの将来的な糖尿病の発症と関連すると言われています。妊娠糖尿病を確実に見つけ、治療することで将来の糖尿病を未然に防ぐことができると考えられます。

現在、日本では、分娩を取り扱う多くの施設において日本産科婦人科学会が作成したガイドラインに従って、妊娠糖尿病のスクリーニング検査(※1)が行われており、妊娠7か月頃(妊娠24~28週)に随時血糖値測定法(※2)か50g糖負荷試験(※3)を実施することが推奨されています。これまでも50g糖負荷試験の利点については報告されてきましたが、検査が複雑で時間がかかることから、随時血糖値測定法を行っている施設が多いのが現状です。

神戸大学医学部付属病院では、妊娠前からすでに糖尿病が存在しているものの検査を受けたことがないなどで診断が付いていない妊婦さんに対し、負担の大きい糖負荷試験を行うことを避けるため、50g糖負荷試験と同時に随時血糖値測定を実施しています。そこで、50g糖負荷試験から妊娠糖尿病と診断された妊婦さんの随時血糖値を調査することで、日本で広く使われている随時血糖値測定法による妊娠糖尿病スクリーニングの問題点を探りました。

研究の内容

2019年2月から2022年1月の3年間に神戸大学医学部附属病院産科婦人科にかかり、妊娠24週から28週に50g糖負荷試験を受けた763人の妊婦さんのカルテ調査を行いました。その結果、241人(31.6%)に50g糖負荷試験で異常(1時間後の血糖値が140g/dL以上)があり、最終的に99人が妊娠糖尿病と診断されました。この99人の随時血糖値を確認したところ、71人(71.7%)は随時血糖値に異常(血糖値が100mg/dL以上)がなく、随時血糖測定法のみで妊娠糖尿病を見つけ出そうとすると50g糖負荷試験を行っていた場合に診断できていたはずの妊娠糖尿病妊婦の約7割の妊婦さんが見逃される危険性があることが分かりました(図1)。

 

さらに、兵庫県内の分娩を取り扱う施設(87施設)で、妊娠糖尿病スクリーニング検査として実際にどのような検査が行われているかについて、2022年6月から2022年7月にかけてアンケート調査を行いました。アンケートの回答率は72.4%で、妊娠20週以降に妊娠糖尿病スクリーニング検査を行っている施設が88.9%あり、そのうち、随時血糖値測定法を使用している施設が42.9%と最も多く、次いで50g糖負荷試験が38.1%という結果でした(図2)。

これまでにも随時血糖値測定法を使用している集団と50g糖負荷試験を使用している別々の集団とを比べた研究の報告はありますが、本研究は、同じ患者さん一人に対して随時血糖値測定法と50g糖負荷試験を行って比較した世界で初めての研究です。兵庫県内の分娩取り扱い施設においても広く行われている随時血糖値測定法ですが、非常に見逃しが多い検査であることが分かりました。

 

今後の展開

実際の現場で広く使われている妊娠糖尿病のスクリーニング方法(随時血糖値測定法)には問題が多いことが分かりました。この危険性を産婦人科医や妊婦さんに理解してもらい、見落としの少ない50g糖負荷試験によるスクリーニング法を普及させる必要があります。

本研究では、50g糖負荷試験で異常があった患者さんすべてに精密検査を行いましたが、随時血糖値測定法で異常があった患者さんについては、その他の条件も考慮して精密検査に進むかを決めていました。現在は、随時血糖値測定法で異常があった患者さんに対しても、全員に精密検査を行うことで50g糖負荷試験だけでなく随時血糖値測定を組み合わせることよって見落としをさらに減らせるかどうかを調べているところです。

研究が進むことにより、妊娠糖尿病の検出率を高め、多くのお母さんや赤ちゃんを妊娠糖尿病による妊娠?出産時の病気から守ることができるようになり、さらには将来の糖尿病発症のリスクも減らせることができると考えられます。

用語解説

※1 スクリーニング検査

病気を早期に発見することを目的とした検査で、無症状の人に対して行われる。スクリーニングで疑い症例を見つけ出し、精密検査で診断を確定する。

※2 随時血糖値測定法

食後からどれだけ時間が経過したかを考慮せずに血糖値を測定する検査。検査前の絶食は必要としない。随時血糖値が100mg/dL以上で妊娠糖尿病が疑われ、精密検査に進む。

※3  50g糖負荷試験

50gの糖が含まれる検査用の炭酸飲料を飲み、1時間後に血糖値を測定する検査。検査前の絶食は必要としない。1時間後の血糖値が140mg/dL以上で妊娠糖尿病が疑われ、精密検査に進む。

論文情報

タイトル

Problems in screening for gestational diabetes mellitus by measurement of casual blood glucose levels at 24–28 gestational weeks

DOI

10.1111/jdi.14310

著者

Masako Tomimoto, Kenji Tanimura, Naohisa Masuko, Akiko Uchida, Hitomi Imafuku, Masashi Deguchi, Akane Yamamoto, Yushi Hirota, Wataru Ogawa, Yoshito Terai

掲載誌

Journal of Diabetes Investigation

研究者

SDGs

  • SDGs3