神戸大学医学部附属病院小児外科の大片祐一特命准教授らは、国産の手術支援ロボット「hinotori TM(ヒノトリ)サージカルロボットシステム(以下、hinotori)」を使用して、学童期の患者さんに対して安全にロボット支援下での副腎腫瘍摘出手術の実施に成功しました。近年、世界各国で様々な手術支援ロボットが開発される中、日本製ロボットの「hinotori」を用いて体格の小さい子どもに手術を行ったのは、今回が世界初です。今後、「hinotori」を用いたロボット支援手術が小児にも導入されることで、小児外科患者の治療の選択肢が広がります。

ポイント

  • 世界初!国産手術支援ロボット「hinotori」による小児手術の成功
  • 体の小さなこどもに対しても、安全で精密なロボット手術が実現
  • 国産手術支援ロボット「hinotori」が、小児外科手術に新たな可能性を開く

本件の背景

近年、全世界において手術支援ロボットの開発が急速に進み、ロボット支援手術の件数は爆発的に増加しています。ロボット支援手術の利点は、手振れがなく人間よりも細かい操作が可能であること、3Dによる高精細な画質で手術を行えることで、これにより出血量や合併症が軽減されることが期待されています。  

既存の手術支援ロボットは、成人の胸腔や腹腔を対象とした仕様で開発されており、小児例の報告も増えていますが、操作範囲の制約や手術の安全性に課題があるとされています。特に我が国では小児に適用できる保険収載術式が少なく、また少子化のため高額な手術支援ロボットを導入しても小児例だけでは経営を維持できる手術件数をまかなえないという事実が小児領域で普及しない要因となっています。

そのような状況の中、2020年8月川崎重工業とシスメックス株式会社の合資により設立された株式会社メディカロイド(以下、メディカロイド)によって、国産として初めて手術支援ロボットhinotoriの製造販売が開始されました。

hinotoriは手術を実施するアームがヒトの腕に近いコンパクトな設計で、また他社製品より低価格を実現し、アーム同士やアームと助手医師との干渉を低減してより円滑な手術が可能になることが期待されています。私たちはロボット支援手術の利点を小児患者さんたちにも活かし、子どもに対して質の高い手術を行い享受してもらいたいと常々考え、特にhinotoriのもつ特徴が小さな患児でも干渉が少なくロボット手術の精緻性が発揮されると考えて研究と準備を行ってきました。

また、小児外科手術の対象は新生児から学童期、青年期に至るまで幅広く、患者の体格や臓器のサイズ、組織の成熟度に大きな差があります。そのため、小児患者においてロボット支援手術の長所を最大限に活かすためには、「適応の明確化」や「術前の手術シミュレーション」がとても重要な要素となります。

本件の概要

hinotoriはこれまで泌尿器科や消化器外科、産婦人科、呼吸器外科へと領域を拡げていますが、今回、我々はこのhinotoriを使用し、小児患者に対する副腎腫瘍摘出手術を世界で初めて成功させました。実際の手術に至る前には、小児ロボット支援手術に関して十分な準備を行いました。

まず、hinotoriが狭小空間でも十分に機能することを、メディカロイドとともに新生児や乳児を想定した模擬的な小さな空間における手術操作の精緻性と安全性の検証を行いました(Kameoka Y. et al., "Evaluation of the hinotori? Surgical Robot System for accurate suturing in small cavities", Journal of Robotic Surgery, DOI: 10.1007/s11701-024-02053-y)。国内企業という強みを生かして正確で密なコミュニケーションを迅速に行い、成し遂げることができました。

実際の患児の手術前には、対象患児の画像データを用いて専用のソフトウェアを用いたポート配置シミュレーションを実施し、hinotoriが対象となる患児の手術においても十分に安全に機能することを確認したのちに、手術を行いました。執刀は国内外で小児ロボット支援手術の執刀経験がある小児外科の大片祐一特命准教授が担当し、腎泌尿器科の亭島淳特命准教授が手術の指導(プロクター)を務め、小児外科の尾藤祐子特命教授および腎泌尿器科の三宅秀明教授らが手術を監修しました。手術は安全に行われ、患児の術後の経過は良好です。

今後の展開

「hinotori」を用いて行った今回の小児手術は、世界における小児外科領域の手術に日本製の手術支援ロボットという新たな選択肢を加えることとなりました。しかし、すべての小児患者に対してhinotoriが適用できることを保証するものではありません。小児領域におけるロボット支援手術を安全にさらに発展させるためには、ロボット支援手術の経験やノウハウが豊富な成人外科診療科との連携が鍵となるため、当院では小児外科と成人外科が一丸となって協力し、質の高いロボット手術を施行する体制を整えています。

今後も、術前シミュレーションやトレーニングシステムの確立、さらには小児患者を想定した手術支援ロボット周辺機器開発に向け複数の国内企業と密に連携を取りながら、「日本発のこどもに優しいロボット支援手術」の実現に向けて積極的に取り組みを続けていきます。

研究者

SDGs

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