*この研究成果はWEB公開のみでプレスリリースは行っておりません
ウシオ電機株式会社(本社:東京都、代表取締役社長 朝日 崇文、以下 ウシオ)と共同研究をしている浜松医科大学医学部外科学第二講座(竹内 裕也教授)と神戸大学大学院医学研究科外科系講座整形外科学(黒田 良祐教授)のグループは、ラット大腸菌投与腹膜炎モデルでの開腹手術時に波長222nmの遠紫外線を照射することで、腹腔内に残余する細菌数を減らし、併発する細菌性腹膜炎(a)の予後が改善されることを報告しました。なお、本研究成果は、2024年11月12日付で「PlosONE」に掲載されました。
ポイント
?手術中に222nmの遠紫外線を照射することで、腹腔内に残余する細菌数を有意に減らし、炎症性サイトカイン(b)が抑えられることを明らかにしました。
?222nmの遠紫外線照射群の1週間生存率は非照射群より有意に高く、222nmの遠紫外線の有効性が確認されました。
?腹腔内の複数組織のDNA損傷を確認し、漿膜(c)にわずかなCPD(d)陽性細胞が観察されましたが、内部組織にはCPD陽性細胞は見られず、安全性も確認されました。
?細菌性腹膜炎の制御への新しい治療戦略の可能性が示され、今後の臨床応用に向けて、さらなる研究が促進されることが期待されます。
概要
有害な紫外線が除去された222nmの遠紫外線は、人体への安全性は高く、菌やウイルスへの殺菌効果もあり、注目されています。
腸管穿孔(e)が発生すると消化管内の内容物が漏出し、細菌により腹腔内が汚染されます。これにより併発する細菌性腹膜炎は、死亡率も高く、近年の医療でも課題です。
そこで細菌性腹膜炎を模したラットの腹腔に222nmの遠紫外線を照射して治療効果があるのか確認しました。その結果、222nmの遠紫外線を照射したラットでは術後一週間での生存率が6割であったのに対し、紫外線照射なしの通常の治療方法では生存率は2割でした(図1A)。また腹膜内の細菌数と血中サイトカインレベルを測定し、腹膜内部の細菌数の減少を確認しました(図1B)。血清IL-1βおよびIL-6値(f)も、非照射群と比較して、照射群で有意に減少しました。
また、222nmの遠紫外線照射による各組織のDNAダメージも検証しました(図2)。その結果、222nmの遠紫外線を照射した臓器の漿膜にはわずかにCPD陽性細胞が見られました。しかし、臓器の内部組織にはCPD陽性細胞が見られず、222nmの遠紫外線は生体への安全性が高いことが分かりました。
図は発表論文より引用(一部改変)
論文情報
タイトル
"Bactericidal effect of far ultraviolet-C irradiation at 222 nm against bacterial peritonitis"
DOI
10.1371/journal.pone.0311552
著 者
Kosuke Sugiyama, Kiyotaka Kurachi, Masaki Sano, Kyota Tatsuta, Tadahiro Kojima, Toshiya Akai, Katsunori Suzuki, Kakeru Torii, Mayu Sakata, Yoshifumi Morita, Hirotoshi Kikuchi, Yoshihiro Hiramatsu, Yohei Kumabe, Keisuke Oe, Tomoaki Fukui, Rena Kaigome, Masahiro Sasaki, Toru Koi, Hiroyuki Ohashi, Tetsuro Suzuki, Ryosuke Kuroda, Hiroya Takeuchi
掲載誌
PlosONE
用語説明
a)細菌性腹膜炎
細菌性腹膜炎は、菌がないお腹の中で細菌による炎症が起きることで発生します。開腹手術の合併症や腸管穿孔に伴う重篤な疾患です。これにより発生する腹膜炎の死亡率は近年でも1割を超え、特に重症例ではより死亡率が高くなります。
b)炎症性サイトカイン
炎症性サイトカインは、免疫系が感染や損傷に反応して放出するタンパク質です。これらは炎症反応を促進し、病原体の排除や組織修復を助けますが、過剰な場合は血圧低下や多臓器不全などを引き起こすこともあります。
c)漿膜
腹腔内の臓器には組織を覆う様に細胞による膜構造が存在します。臓器固有の機能はこの漿膜の内部の細胞にあり、漿膜そのものは他の臓器との隔壁や臓器の構造を保護しています。
d)CPD
シクロブタン型ピリミジン二量体(CPD)は、DNAの損傷の一種です。紫外線が照射されることでこの障害が発生することが知られています。
e)腸管穿孔
腸管穿孔は、消化管(小腸や大腸など)に穴が開く状態を指します。この状態は非常に危険で、早急な治療が必要です。抗菌薬の点滴で改善することもありますが、腹膜炎の状態では手術による細菌の除去が必要です。
f)血清IL-1βおよびIL-6値
血液中に含まれる炎症性サイトカインの一種でこれらの値が高くなると全身に激しい炎症が引き起こされます。
国立大学法人 浜松医科大学
1974年に静岡県唯一の国立医科大学として開学。以来、優れた医療人と独創力に富む研究者の養成を目指しています。「人間性を重視した教育」を実践しており、教育?研究?診療地域貢献?産学連携?国際交流など多方面での実績を重ね、地域社会や国際的な医療の発展に貢献しています。光医学総合研究所を設置し、基礎研究と臨床研究の双方向の橋渡し研究を行うなど、先端的な医療技術の研究に力を入れています。
国立大学法人神戸大学
1902年創立。人文?人間科学系、社会科学系、自然科学系、生命?医学系の4大学術系列の下に10学部、15大学院を有する総合大学です。『知と人を創る異分野共創研究教育グローバル拠点』をビジョンに掲げ、「学理と実際の調和」の理念を重んじた研究教育を実践しています。医学研究科ならびに医学部附属病院においては、先端的研究?イノベーション創出を目指すとともに、市や産業界と連携し、医工連携による革新的医療機器の研究?開発の推進や創造的開発人材の育成に力を入れています。
ウシオ電機株式会社(本社:東京都、東証6925)
1964年設立。紫外から可視、赤外域にわたるランプやレーザー、LEDなどの各種光源および、それらを組み込んだ光学?映像装置を製造販売しています。半導体、フラットパネルディスプレイ、電子部品製造などのインダストリアルプロセス分野や、デジタルプロジェクターや照明などのビジュアルイメージング分野で高シェア製品を数多く有しており、近年は医療や環境などのライフサイエンス分野にも事業展開しています。