無機化学とは「炭素および水素を中心とした炭化水素系化合物以外の物質を取り扱う化学」という、否定による定義で始まる化学の一分野です。しかし言い換えれば、研究の対象として何を扱ってもよいという自由な世界ともいえます。このことは世の中に出版されている教科書の内容の多様性にも表れており、その構成や内容、取り扱われている原理のあまりの多様さにどこから学べばよいか決めかねることも少なくありません。限られた時間の中で無機化学を学ぶには、この多様で広範な内容の中で、物質を理解するための基礎となる「役に立つ」内容を選択することが重要でしょう。
本書は大学の理、工学部などの化学の基礎知識を必要とする理系分野の学生が、これから様々な分野に進む際に必要とされる無機化学のエッセンスがまとめられています。原子論から分子論、結合、さらに集合体の化学と視野を徐々に広げていく過程において必要とされる理論の導出とその理論からのずれを補う各元素の特徴を理解することによって、工業的に様々な分野で用いられている無機材料の特徴を捉えることができると期待しています。
大学院工学研究科教授?出来成人、同准教授?水畑穣