1990年に「万人のための教育」の概念が生み出されて以来、世界各国で「すべての国民に教育の普及を」という活動がなされてきた。2000年には国連ミレニアム開発目標 (Millennium Development Goals: MDGs) によって、2015年までに初等教育の修了率を100パーセント達成しようという期限付きの具体的な目標が設定され、開発途上国 (以下、途上国) の教育普及に対する世界的な気運が一層高まっている。それに伴い、教育開発や教育協力に関する研究論文や報告書、そして途上国政府の教育政策文書などにおいても、就学率や内部効率性などの専門用語が飛び交うようになり、今やどの途上国における教育文書を手にとっても教育に関する指標を見るようになった。
このような指標は今でこそ当たり前のごとくいたるところで目にするが、それらの指標を用いるには、様々な背景?目的があり、途上国の教育問題を考察するにあたっては、それらの指標を正しく読み取り、使えるようになる必要がある。報告されている指標は、当然各国のフィールドでそれらのデータを収集し、データ入力、データ分析を行うという膨大な作業が背景でなされており、報告された指標を見て、途上国政府は教育現状を把握し教育政策を策定、調整しながら、国が達成しようとしている教育政策目標に向けて舵取りをしているのである。
途上国における教育開発?教育協力の分野で活躍することを希望される読者の方は、まずはこれらの指標がどのようなデータを使ってどのように算出されているかを知り、指標がどのような意味を持つのか、その指標を使ってどのような対策を取るべきか、またはその指標は正しいのか、そのようなことも念頭に置きながら、教育の全体像を把握できるようになっていただきたい。本書は、初めて教育開発という言葉を聞いた入門者や、教育開発の分野での研究を志す学生、そして、実際に途上国の開発問題や教育開発の実務で活躍している実務者にも参考書として使っていただけるよう、できる限りわかりやすく、また、実用的であるように心がけた。 研究者にとっても最低限の理論背景をわかるようにし、実務者にとっても実務でどう教育統計を読み解くかという指標の解釈の仕方に力を入れた。
また、本書は指標や分析手法の紹介と事例研究、そして分析結果の解釈の方法を織り交ぜているため、実践でも十分に使えるようになっている。本書を読みながら、読者の研究対象となっている国のデータでも、実際に分析や解釈を行ってほしい。おそらくこれまでと違った角度から途上国における教育の現状が見えてくることと思う。
大学院国際協力研究科教授?小川啓一