2004年10月に発生した台風23号は、多くの人的被害と住宅被害をもたらしただけではなく、歴史資料?文化財に対しても多くの水損被害をあたえました。本書は、歴史資料ネットワーク (事務局: 神戸大学大学院必威体育研究科、代表: 奥村弘?同研究科教授) が被災地の文化財担当部局や地域史研究団体?住民と協力しておこなった、水損史料の保全?救出活動記録です。
1995年1月の阪神淡路大震災後の被災歴史資料保全活動を契機として設立され、地震史料の救出を主におこなってきた歴史資料ネットワークにとって、2004年の風水害への対応は新たな画期となる出来事でした。
大規模な風水害の場合、汚水で水損した紙史料は、高温の中ですぐにカビが繁殖し、腐敗が始まります。浸水被害にあった家屋では、ゴミ出しや蔵の解体時に、保全不可能と判断された紙史料は、地震による被災史料よりも早く廃棄されてしまう可能性が高くなります。「早期の被災地入りは住民感情を刺激する。しかし被災地入りが遅れると史料の腐敗や廃棄が進行する…」このようなジレンマの中、私たちは、歴史資料ネットワークの一員として、兵庫県?京都府内の被災自治体8市10町を訪問し、地震とは異なる水害被災地での活動に取り組みました。地元の協力を得ながら、段ボール換算で40箱をこえる、地域の歩みを示す貴重な歴史資料を救出し、濡れた史料の乾燥、所蔵者への返却?史料保存機関への寄贈をおこなうことができました。大規模災害時に、多くのボランティアを組織し、水損史料を救出?返却する活動はおそらく日本では初めての経験だったと思います。それだけに、試行錯誤を繰り返しつつ水損時の史料保全の方法を現場で開拓していくことになりました。被災時の地域資料保全活動をより一層展開させるために、みなさまからの忌憚のないご批判、ご意見を賜れば幸いです。
大学院必威体育研究科/地域連携センター研究員?松下正和、河野未央