ナショナリズム、民主主義、イデオロギー、そして、政治文化。政治学という学問は、その概念自体が論争的で、様々な要素を含む政治現象を対象としている。その複雑さは、政治学が対象とする現象が過度に複雑であるからというよりは、むしろ、それが議論しようとする内容が多くの価値観を孕む、多分に「人間的」なものであるからのようにも思えなくもない。
そして本書で扱う「ポピュリズム」もまた、そのような「人間的」で、論争的な概念であり、また現象の一つである。だからこそ、本書が取り上げる「ポピュリズム」の事例もまた多様であり、これを分析する各々の執筆者の見方も様々である。
しかしながら、そのことは本書における「ポピュリズム」に対する見方が統一性を持たない、ということを意味しない。本書が注目するのは、「ポピュリズム」が民主主義に対して持つ、二面性とでも言うべきものである。即ち、民主主義には制度とイデオロギーの双方が重要であり、「ポピュリズム」はこの二つのうち、後者を代表している。「民衆の意思が政治に体現されるべきである」というイデオロギーなき制度的民主主義は非民主的なものとなることを運命づけられている。
しかしながら、この「民衆の意思が政治に体現されるべきである」というイデオロギーの矛先が、民主主義を支える制度を攻撃する方向へと向けられた時、制度はその機能を停止し、民主主義は自らを支える基盤を失うこととなる。だからこそ「ポピュリズム」は、状況に応じて、民主主義を強化するものとして現れることもあれば、これを打ち壊す脅威となって現れることもある。その意味で政治現象の分析者にとって「ポピュリズム」は、制度的民主主義と並んで、民主主義の機能を垣間見ることのできる重要な「窓」だ、と言うことが出来る。
ともあれこうして、本書には8ヶ国の「ポピュリズム」の事例が、8人の研究者の「ポピュリズム」理解と共に並ぶこととなった。その各々の事例と分析が、どのような意味を持ち、どのように評価されるべきかについては、読者諸賢の評価を真摯に待ちたいと思う。多くの人々が本書を手に取ってくれることを期待したい。
国際協力研究科教授?木村幹