太平洋に点在する島々を中心としたオセアニアは、地球表面積の3分の1近くを占める。地政学的な重みと少ない人口とのアンバランスが産み出す可能性と課題を論ずる。
本書は、日本オセアニア学会創立30周年の記念出版である。1993年には学会創立15周年記念として『オセアニア』3巻本が出版されたが、オセアニア研究はその後の15年の間に飛躍的に発展しており、今回、その最先端の研究成果を公刊することとなった。本書の最も大きな特徴は、文化人類学、人類生態学、考古学、自然人類学、言語学、社会学、政治経済学など、多様なディシプリンが結集して、オセアニアという地域を多角的に研究しているという点であり、地域研究の一つのあり方を提示していると考えている。
太平洋に点在する島々を中心としたオセアニアという地域は、日本では、長年「辺境」としての扱いを受けてきており、マスメディアでも「秘境」あるいはその逆の「楽園」として描かれるだけであった。最近は、ツバルの例に見られるように、地球温暖化との関連で「科学技術の犠牲者」として描かれることもあるが、どちらにしても、日本からは最も遠い位置付けにある「よその世界」としてのイメージが先行しているといえる。しかし、これらの島々は、我々と同時代を生きているのであり、イメージとは異なった現実の世界がそこに展開されているのである。
本書は五部構成をとっている。第一部「人類の移動と居住戦略」では、オセアニアに初めて足を踏み入れた人びとの移住の足跡を追及している。第二部「環境と開発」では、海の文化を取り囲む自然?社会的環境だけではなく、グローバリゼーションの進行に伴う環境変化をも視野にいれて議論を展開している。第三部「身体と病い」では、自然環境の変化が身体にどのような影響を与えるのかという点が論じられている。第四部「植民地化と近代化」では、オセアニアにおける近代化、第五部「文化とアイデンティティ」では、オセアニアの文化を扱っているが、近代化と伝統文化という具合に、伝統と近代を対比して論じようとしているのではない。本書では、オセアニアにおける開発も、病いも、近代化も、かつてから継続しているとされている文化も、今日的なアイデンティティのあり方も、現在の島嶼世界を生きる人びとの文化そのものであるという視点から論じているのである。
大学院国際文化学研究科教授?吉岡政徳、窪田幸子