オセアニア学

太平洋に点在する島々を中心としたオセアニアは、地球表面積の3分の1近くを占める。地政学的な重みと少ない人口とのアンバランスが産み出す可能性と課題を論ずる。

  • 著者
  • 吉岡政徳 監修/遠藤央, 印東道子, 梅﨑昌裕, 中澤港, 窪田幸子, 風間計博
  • 出版年月
  • 2009年09月
  • ISBN
  • 9784876987894

本書は、日本オセアニア学会創立30周年の記念出版である。1993年には学会創立15周年記念として『オセアニア』3巻本が出版されたが、オセアニア研究はその後の15年の間に飛躍的に発展しており、今回、その最先端の研究成果を公刊することとなった。本書の最も大きな特徴は、文化人類学、人類生態学、考古学、自然人類学、言語学、社会学、政治経済学など、多様なディシプリンが結集して、オセアニアという地域を多角的に研究しているという点であり、地域研究の一つのあり方を提示していると考えている。

太平洋に点在する島々を中心としたオセアニアという地域は、日本では、長年「辺境」としての扱いを受けてきており、マスメディアでも「秘境」あるいはその逆の「楽園」として描かれるだけであった。最近は、ツバルの例に見られるように、地球温暖化との関連で「科学技術の犠牲者」として描かれることもあるが、どちらにしても、日本からは最も遠い位置付けにある「よその世界」としてのイメージが先行しているといえる。しかし、これらの島々は、我々と同時代を生きているのであり、イメージとは異なった現実の世界がそこに展開されているのである。

本書は五部構成をとっている。第一部「人類の移動と居住戦略」では、オセアニアに初めて足を踏み入れた人びとの移住の足跡を追及している。第二部「環境と開発」では、海の文化を取り囲む自然?社会的環境だけではなく、グローバリゼーションの進行に伴う環境変化をも視野にいれて議論を展開している。第三部「身体と病い」では、自然環境の変化が身体にどのような影響を与えるのかという点が論じられている。第四部「植民地化と近代化」では、オセアニアにおける近代化、第五部「文化とアイデンティティ」では、オセアニアの文化を扱っているが、近代化と伝統文化という具合に、伝統と近代を対比して論じようとしているのではない。本書では、オセアニアにおける開発も、病いも、近代化も、かつてから継続しているとされている文化も、今日的なアイデンティティのあり方も、現在の島嶼世界を生きる人びとの文化そのものであるという視点から論じているのである。

大学院国際文化学研究科教授?吉岡政徳、窪田幸子


目次

  • 第I部 人類の移動と居住戦略
    • 第1章 ヒトからみた移動と拡散
    • 第2章 東南アジアからオセアニアへの拡散と居住戦略
    • 第3章 島嶼部への拡散と居住戦略
    • 第4章 言語にみる歴史と環境
    • 第5章 先史時代の交易
  • 第Ⅱ部 環境と開発
    • 第1章 高い島と低い島 ――歴史生態学の視点から
    • 第2章 生業の多様性とその変容
    • 第3章 開発と環境保護
    • 第4章 社会開発と自然環境 ――オセアニア島嶼の「個別性」
    • 第5章 自動車の普及と社会変容 ――島嶼のグローバル?テクノスケープ
  • 第Ⅲ部 身体と病い
    • 第1章 子どもの成長にみる大きな地域差
    • 第2章 環境と身体の多様性 ――成長?栄養とライフスタイル
    • 第3章 生活習慣病と倹約遺伝子
    • 第4章 社会不安と健康
    • 第5章 伝統医療と近代医療
    • 第6章 援助と健康教育 ――ソロモン諸島におけるマラリア対策の事例考察
    • 第7章 海外移住の人口学
  • 第Ⅳ部 植民地化と近代化
    • 第1章 キリスト教化の歴史
    • 第2章 日本統治下の南洋群島
    • 第3章 国際政治と安全保障 ――マーシャル諸島の現代政治史とアメリカ合衆国の安全保障政策
    • 第4章 紛争と政治的混乱 ――アフリカ化論の批判的検討を通じて
    • 第5章 国民経済と出稼ぎ移民 ――グローバル化のもたらす近代性と贈与交換
    • 第6章 先住民運動とメディア 第V部 文化とアイデンティティ
    • 第1章 観光と「伝統文化」
    • 第2章 芸術とアイデンティティ
    • 第3章 文化の復興と創造
    • 第4章 ジェンダーと社会 ――メラネシアの伝統を生きる女性たち
    • 第5章 文化的アイデンティティと国家
    • 第6章 ポリネシアの言語とアイデンティティ
    • 第7章 メラネシアにおける言語とアイデンティティ