本書は、貧困に苦しむアフリカの状況について、その要因や特異性を、国家のあり方に注目して明らかにしようとしたものです。開発研究は、アフリカに往々にして向けられる蔑視を超え、アフリカを含む途上国に住む人々も、他と同様に開発の主体となり得る存在と捉えてきました。開発研究の主柱である主流派経済学は、経済的な自己合理性に則る普遍的な人間像を前提にした分析を行い、また主流派経済学の強い影響を受けた新政治経済学も、そのひそみにならってきました。
しかし、これらの普遍的アプローチは、現実の社会的関係の中に生き、反対に社会的関係をかたちづくる人間という、双方向の作用の多面性を十分に捉えきれないという問題点を抱えています。本書では、国家が非常に複雑な社会的関係であることを念頭に置いて、自己合理性に加え、互いに共感と反感をいだき、権力や暴力など超越的なものを恐れ、具体的な社会的関係に制約される人間像というものを前提として、アフリカの開発状況を分析する、というアプローチをとりました。そのアプローチによってアフリカの国家の固有性を描き出そうとする地域研究を深化させ、さらには開発研究と架橋することを目指したのです。
本書で特に主要な問題としたのが、アフリカの国家が、人口の過半数を占める小農大衆の生産を向上させる社会的枠組みになりえていないのは、どのような背景によるのか、ということです。この問いを明らかにするために、人間と社会的関係の作用に影響を及ぼすアフリカの政治権力の履歴、自然?資源、国際社会との関係、民族?言語の多様性?流動性などの要素を広く考察しました。考察の作業が成功を収めたかどうかについては、読者のご判断にお任せするしかありませんが、アフリカの開発と国家を考える上でのいくつかの重要な論点を提示できたつもりです。アフリカの諸問題のみならず現代世界における開発と国家の関わりに関心をお持ちの方は、是非ご一読ください。
大学院国際協力研究科教授?高橋基樹