開発援助の世界で、「法の支配」がテーマとなっている。しかしこれを研究する「法と開発」領域は、欧米研究者による一方通行が定着してきた。筆者はこの領域に日本から参加する数少ない研究者として、アジアの支援受入国の側から、欧米法や欧米ドナーのありかたを逆に見つめていく視点を持ち込もうとしている。とくに1990年代半ば以降に日本からアジア諸国向けに実施されている「法整備支援」の細部に取材し、法学者より以上に裁判官?検事?弁護士といった実務法曹が担った、書かれた法を超えた経験知を体する支援過程に立ち入りながら、アジア社会が主体的に模索しつつある司法制度?訴訟手続?調停?仲裁制度の独自の魅力と、日本からの関与の課題に迫っている。方法的には、現地実定法の体系的分析と、フィールドワーク?現地判例研究による動態分析を意欲的に組み合わせ、アジア法研究の新たな方法的接近を図っている。
国際協力研究科教授?金子由芳