本書は、大学に入り、初めてサービスについて学ぼうという人たち、あるいは、社会人で、サービスについてもっと学んでみたいと思う人たちのために書かれている。そのために、本の題名は『1からのサービス経営』としている。サービスは、人と人とが接するときに、必ず必要となる概念である。しかし、日常使っているサービスについて、しっかり学ぼうとすると、意外にぼんやりとしか理解できない性質も持っている。たとえば、モノを買うときに支払う金額はわりと妥当性を理解できるが、サービスに対して支払う金額はなかなか判断がつかない場合もあるであろう。特に、日本人はモノを買ったときにサービスを受けるのは当然であり、タダであることが当たり前のように思っている場合が多い。これは、アメリカ人がどのようなサービスに対してもチップを支払うのとは、全く、対照的である。日本人は、サービスに対する考え方が他の国とは少し違い、サービスをビジネスとして考えることに慣れていないからかもしれない。本書では、このように、よく使われる割に理解されていないサービスという概念に焦点を当て、サービスによって成り立っている職業を事例に、 サービスがどのような価値を生み出しているのかを理解する目的で書かれている。
本書は、前半と後半に分けて、二つの異なったタイプのサービスについて書かれている。前半の第1章から第7章までは、人に関わるサービスが描かれている。ここでは、誰もが日常的に体験できるサービスの特徴を学ぶことができる。サービス特有の性質を学ぶことにより、いかにサービスが経営に結びついているかを分かりやすく説明している。次に、第8章から第14章までは、モノとサービスによって価値が生み出されている事例が取り上げられる。モノとサービスという今までは二分的に区別されてきた概念を同時に考えるのは、一見、分かりにくいと思われるだろうが、ここに紹介されている事例を読めば、モノだけでも、サービスだけでも生まれない価値が確かに存在し、それがビジネスとして成立していることがよく分かるであろう。モノとサービスにより新たな価値を生み出す事例は、近年、特に多くなってきているが、こうした観点からサービスを学ぶことができるテキストブックはあまり存在していない。この点も本書の大きな特徴であろう。前半と後半を合わせて12のサービスの事例について、その職業や企業の内容を理解した上で、どのような価値が生み出され、どのようにビジネスとして成り立っているのかについて分かりやすく解説しているのがこの本の特徴である。
これまでのサービスのテキストでは、実際に社会で働く人が特定のサービス業の細かい内容について書かれることが多かった。本書では、多様化しているサービスについて、まず、職業そのものを理解してもらい、そのなかからサービスの特徴を捉え直し、経営のキーポイントを理解してもらおうという、今までのテキストとは全く異なった構成になっている。本書は、身近でありながらなかなか学びにくいサービスについて、経営という職業的な側面から分かりやすく理解してもらうことを目的として書かれている。各章を読み進めていくうちに、サービスによってどのようにお金が稼がれているのかが理解できるようになっている。
経済経営研究所教授?伊藤宗彦