本書は2008年1月に出版した訳書の改訂新版です。訳文を全面的に見直し、事情の変化が大きい点に関しては新たに注を付しました。今日、イギリスやフランスなどで絶え間なく起こる移民の暴動、あるいは移民排斥を求める極右団体の台頭、スカーフ問題、ターバン問題など、今後のヨーロッパ社会のあり方を考えて行くには移民をいかに位置づけるかについて考察することが欠かせなくなっております。本書は、ドイツ、イギリス、フランス、スウェーデン、オランダ、ギリシア各国における近年の移民の急激な増大を受けて、教育や社会がどのように変化したのかを検討し、さらにそのような状況を受けて逆に教育には何ができるのかを考察したものです。古典的な移民国家としてオーストラリアにも言及し分析?比較しています。第1章から第3章までは理論編といったところで、近年の移民の急激な増大の実態と、グローバリズム、グローカリズム、トランスナショナリズム等の概念の理論的検討を行い、第4章以下では各国の事例分析を行っています。後書きにも書きましたとおり、今、ヨーロッパ移民に関しては、EU加盟国の拡大とイスラム文明の流入が二つの大きな争点となっています。この二つがクロスするのが近い将来のトルコ加盟をめぐる問題でしょう。
当然、こういう問題は日本にとって無縁なものではなく、我々にとっても参照すべき点は多くあるように思われます。本書はキレイゴトに終始する二流、三流の一部移民論とは一線を画し、一流の執筆陣が現実的な提案をしているところに魅力があるように思われます。多くの方々にお読み頂ければ幸いです。
大学教育推進機構/大学院国際協力研究科教授?山内乾史