「南太平洋」といった場合、その言葉の持つ独特のイメージが一人歩きしているのが現状である。イメージというのは、「秘境?楽園」イメージである。南太平洋はメラネシアとポリネシアからなっているが、ニューギニアに代表されるメラネシアは秘境というイメージで、タヒチに代表されるポリネシアは楽園イメージで語られてきた。そして、イメージだけが先行していて、そこでどんな生活が営まれているのか、そこにどんな国々があるのかなどの内実はほとんど知られておらず、また関心もあまり払われてこなかった。そこで本書では、この秘境や楽園というイメージで語られてきた南太平洋の現実を伝えることで、そのイメージを打破し、南太平洋は我々の世界から隔絶されているのではなく、我々と同時代を生きているという点を強調することに主眼をおくことにした。
南太平洋の国や地域は、日本ではその名前すらほとんど知られていない。「アジア太平洋の時代」という標語においては、太平洋地域に関する部分はオーストラリアとニュージーランドが占め、島嶼国家は全くそこから抜け落ちているのが現実である。日本では、南太平洋の国々は弱小最貧国という括りの中で埋没し、取るに足らないところと考えられてきたかのようである。そのこともあって、秘境と楽園というイメージだけが先行してきたわけである。本書は、こうした状況の一端でも打破したいという思いで編集された。
国際文化学研究科?吉岡政徳