小児科医、産婦人科医等の深刻な医師不足が新聞等で報道されているが、水面下ではもう一つの医師不足が進行している。それは病理診断の担い手、病理医の不足である。
病理診断とは患者の体より採取したあらゆる病変の組織や細胞をスライドガラスに乗せた標本を作製し、顕微鏡下で検鏡し診断することであるが、一番わかりやすい例は「腫瘍の良性悪性を決定する (がんかどうかを決める)」ことである。この病理診断を専門とする医師が病理医である。病理診断は医行為であり、その診断結果は疾患を見極め、医療を遂行する上で不可欠である。病理医は臨床医と異なり患者の前には通常出てこないため、その存在に患者自身が気付くことなく治療が進む。病理医は全医師の1%未満に過ぎず、人口比ではアメリカの約5分の1しかいない。日本では病理医不在の病院が圧倒的多数である。
長い間「科」として認知されてこなかったが、2008年4月から「病理診断科」が内科や外科等と同じ標榜科となった。それを機に病理診断についての基本的な解説書が必要と考え本書を執筆した。神戸大出身の病理診断医であり、科学技術、医療政策ウオッチャー (サイエンス?サポート?アソシエーション代表) である榎木英介氏との共著である。榎木氏は昨年まで附属病院特定助教の職にあった。
病変組織と向き合い、真実を見抜く病理診断。日夜形態から疾患を見つめている病理医。病理診断の環境整備は21世紀の日本の医療にとってよい結果を生むであろう。是非本書を手にとって病理診断への理解を深めていただきたい。
医学研究科講師/病理専門医?近藤武史